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第7章
第336話 悪役令息のきもだめし④
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魔法の発達した国できもだめしをするのはやめた方がいい。羽ばたく蝙蝠もミイラ男も幽霊も、なにもかもリアルで怖すぎるから! 骸骨を追い払ってもらった後も、次々と怪しいものが迫ってきて、僕たちは休む間も無く走り続けていた。
ずざぁ~っ
(いたっ。何!?)
勢いよく転んで全身を地面に打ちつける。固い岩にぶつけたところが痛い。でもそれどころじゃない。足首に違和感が……。見たくはないけど見るしかない。そして見てしまったことをすぐ後悔した。
土の中から…手!? あ、足首掴まれてるぅうう!!
「や……離してっ!!」
「キル兄様、どうしました!?」
「ふぇえええ……僕を置いて…に、逃げて……ユジン」
おばけに足首掴まれて、転けて、地面に這いつくばってもがいている。けど逃げられない。←今ココな僕。(もうこれホラー映画だと死亡フラグというかもうほとんど死亡寸前の段階だよね)
「すぐ助けます!」
ユジンがおばけの青白い手を払いのけてくれた。助かった……。
だけど伸びてくる手はそれだけじゃない。
地面や壁など至るところからにょきにょき生えた手が、ボコボコと固い岩を押しのけながら移動し、こっちに迫ってくる。ユジンはそれを蹴り飛ばして食い止めてくれた。
「兄様に触れるなんて許せません……。こいつら全部燃やし尽くしたいところですが……」
「駄目だよ。洞窟内で大きな火魔法使うと危ないからっ」
「くっ我慢します。あっちに逃げましょう」
そこで立とうとして気づいた。
(やばい……腰が抜けて…動けない……)
僕はユジンの提案に、座り込んだままフルフルと首を横に振った。
「悪いけど、一人で先に行って? 僕、ちょっと疲れちゃって。後から追いかけるから……」
「キル兄様?」
弟の足手纏いにだけはなりたくない。あれに捕まるのは怖いけど……先生たちが作ったものだと言っていたし、まさか食べられるとかそんなことはないだろう。ユジンだけでも助かるなら……。
伸ばしてくれる手を取らずにいると、ユジンが僕のすぐ横に片膝をついてしゃがんだ。
「わかりました。じゃあ夢のお姫様抱っこ、しちゃいますね!」
「夢の? うわあああ来た! ミイラ男が走ってくるよ。土の中の手も!!」
動けない僕の体を軽々と抱き上げて、ユジンはそのまま走り出した。重いはずなのに、それを全く感じさせない速さ。あっという間に気持ち悪い手の群れを引き離し、周囲は静かになった。
「もう追ってきていないようですね」
「僕が守るはずだったのに……逆に守られてばっかり。ごめん……」
ユジンに格好いいところを見せるはずが、お姫様抱っこさせちゃうなんて僕の馬鹿。立てもしない自分の弱っちい体とメンタルが憎らしい。
「いえ、十分力をもらってます。僕は兄様とこうしていられるだけで死ぬほど幸せなので。このまま休憩ポイントまで走りますから、しっかり掴まっててください」
(なんて頼りになる弟なの!?)
爽やかな笑顔が、(真っ暗闇の中でほとんど見えないけど)眩しい。せめて彼の負担にならないようにと、腕を首の後ろに回し上半身を密着させる。想像以上に力持ちの彼の抱っこは安定していて心地いい。走って疲れているのか真っ赤になった顔に、大丈夫かと聞けば、大丈夫ですっ! と元気な返事が返ってきた。
(はぁ~ユジン……ほんといい子に育ったなぁ)
「ありがと……ユジン大好き!」
「僕もキル兄様のこと大好きです!」
そこからはひしっと彼につかまっていたから怖くなかった。ユジンは化け物たちをうまく躱し、どんどん進んでいく。今までで一番順調な進み具合だ。あれ? なんで?
(まぁいいか。今のうちに心を落ち着けて、早く自分で動けるようになろう。こうして抱っこされていれば、おばけに足を掴まれることもないのだし…大丈夫、大丈夫)
何度も深呼吸をすると、落ち着いてきた。そろそろ降ろしてもらおう。そう思ってユジンに声をかけようとした時だった。
「んぇ? 何……?」
コツンと頭に何かがぶつかる。なんだろ? 目を凝らしてみると、
(首が浮いてる!?)
天井から髪の毛で吊り下がっている生首と目が合った。バチンとウインクを飛ばし、生首が喋り始める。
「モウスグキュウケイチテン」
「ふっっっぎゃああああああ」
「キル兄様!?」
きもだめし嫌い。ほんと、嫌い。怖いのは苦手なの!!
やっと休憩地点に到着した。休憩地点は洞窟の中にいくつかあるらしく、飲み物や軽食が用意されている。ここには少し明かりがあって、化け物も入ってこないようになっていた。
「キル兄様、ここで治療しましょう。少し時間がかかりそうなので、僕の膝を枕に寝転んでもらいますね」
「ん、わかった」
ユジンは僕の腰に力が入らないことに、気づいてくれていたみたい。動けないことは隠してたのにわかるなんてすごい。僕は耳かきでもしてもらうようなスタイルで、ゴロンと寝かされた。
「患部に魔法陣を描きますから、動かないでくださいね」
「はぁい」
ふふっ注意事項も耳かきと一緒でおもしろ……。こうして寝転んでいると、昔前世のお母さんに膝枕してもらったことを思い出してなんだかこそばゆい(やってもらったのは小学生までだけど)。
ユジンの膝の上、ぽかぽか温かくて安心する……。うとうとして眠くなってきた僕は、寝ないようにおしゃべりしてみることにした。せっかくだし気になっていたことを聞いてみよう。
「あのさ、ユジン」
「なんですか?」
「ユジンは、えっと、ギア=モークには会ったことある?」
「モーク伯爵令息ですね。ありますよ。剣術訓練所で剣の練習をしていたら、練習相手になってくれて」
「そうなんだ。彼のこと、どう思う?」
「え? まぁ、練習に付き合ってくれて優しい先輩だと思います。騎士団長の嫡男にふさわしい腕の持ち主で尊敬しています」
「そうなんだ」
ギア、結構いいかんじ? 剣術が得意なギアと剣の練習を通して仲良くなっていく、というのはかなりあり得そうな展開だ。
「えと、じゃあロイルは?」
「そうですね。この前ばったり食堂でお会いした時に、クライス王子の弱点を聞いてみたのですが」
「ほぇ? クライスの?」
なんで弱点!? たしかにちょっと気になるけど……。
「『弱点は特にない。強いて言うならキルナ様だよ』、と役に立たない意見をもらったくらいですね」
「へぇ……」
なんかよくわかんないけど、ロイルとはあまり仲良くないみたい。
「じゃあ、リオンは?」
「魔法訓練所でお会いしたことがあります。火魔法の効率的な使い方を丁寧に教えてくださって。その後も何度か教えてもらって感謝しています」
「そう。何度も会ってるんだ。もしかしてリオンのこと、好き?」
「好きか嫌いかと問われれば、まあ好きですが。多分兄様が期待しているような好きではないと思います」
「んぅ? そーなの?」
それならノエルのことはどう思ってるかを尋ねようとしたけれど、ユジンに胡乱な目を向けられ口を噤んだ。
「というか。なんの質問なんですか、それ」
「あ……ごめん。嫌だよね、こんなこと聞いてくるお兄ちゃんなんて。ほんとごめん……」
なんてこと。
ユジンの攻略対象者への好感度が気になるあまり、デリカシーのない兄になってしまっていた。
「別に責めるつもりは」
「僕のこと…嫌いになった?」
「いえ、大好きです」
うまく聞けなかったけど、ユジンに嫌われなくてよかった~と胸を撫で下ろした。
ずざぁ~っ
(いたっ。何!?)
勢いよく転んで全身を地面に打ちつける。固い岩にぶつけたところが痛い。でもそれどころじゃない。足首に違和感が……。見たくはないけど見るしかない。そして見てしまったことをすぐ後悔した。
土の中から…手!? あ、足首掴まれてるぅうう!!
「や……離してっ!!」
「キル兄様、どうしました!?」
「ふぇえええ……僕を置いて…に、逃げて……ユジン」
おばけに足首掴まれて、転けて、地面に這いつくばってもがいている。けど逃げられない。←今ココな僕。(もうこれホラー映画だと死亡フラグというかもうほとんど死亡寸前の段階だよね)
「すぐ助けます!」
ユジンがおばけの青白い手を払いのけてくれた。助かった……。
だけど伸びてくる手はそれだけじゃない。
地面や壁など至るところからにょきにょき生えた手が、ボコボコと固い岩を押しのけながら移動し、こっちに迫ってくる。ユジンはそれを蹴り飛ばして食い止めてくれた。
「兄様に触れるなんて許せません……。こいつら全部燃やし尽くしたいところですが……」
「駄目だよ。洞窟内で大きな火魔法使うと危ないからっ」
「くっ我慢します。あっちに逃げましょう」
そこで立とうとして気づいた。
(やばい……腰が抜けて…動けない……)
僕はユジンの提案に、座り込んだままフルフルと首を横に振った。
「悪いけど、一人で先に行って? 僕、ちょっと疲れちゃって。後から追いかけるから……」
「キル兄様?」
弟の足手纏いにだけはなりたくない。あれに捕まるのは怖いけど……先生たちが作ったものだと言っていたし、まさか食べられるとかそんなことはないだろう。ユジンだけでも助かるなら……。
伸ばしてくれる手を取らずにいると、ユジンが僕のすぐ横に片膝をついてしゃがんだ。
「わかりました。じゃあ夢のお姫様抱っこ、しちゃいますね!」
「夢の? うわあああ来た! ミイラ男が走ってくるよ。土の中の手も!!」
動けない僕の体を軽々と抱き上げて、ユジンはそのまま走り出した。重いはずなのに、それを全く感じさせない速さ。あっという間に気持ち悪い手の群れを引き離し、周囲は静かになった。
「もう追ってきていないようですね」
「僕が守るはずだったのに……逆に守られてばっかり。ごめん……」
ユジンに格好いいところを見せるはずが、お姫様抱っこさせちゃうなんて僕の馬鹿。立てもしない自分の弱っちい体とメンタルが憎らしい。
「いえ、十分力をもらってます。僕は兄様とこうしていられるだけで死ぬほど幸せなので。このまま休憩ポイントまで走りますから、しっかり掴まっててください」
(なんて頼りになる弟なの!?)
爽やかな笑顔が、(真っ暗闇の中でほとんど見えないけど)眩しい。せめて彼の負担にならないようにと、腕を首の後ろに回し上半身を密着させる。想像以上に力持ちの彼の抱っこは安定していて心地いい。走って疲れているのか真っ赤になった顔に、大丈夫かと聞けば、大丈夫ですっ! と元気な返事が返ってきた。
(はぁ~ユジン……ほんといい子に育ったなぁ)
「ありがと……ユジン大好き!」
「僕もキル兄様のこと大好きです!」
そこからはひしっと彼につかまっていたから怖くなかった。ユジンは化け物たちをうまく躱し、どんどん進んでいく。今までで一番順調な進み具合だ。あれ? なんで?
(まぁいいか。今のうちに心を落ち着けて、早く自分で動けるようになろう。こうして抱っこされていれば、おばけに足を掴まれることもないのだし…大丈夫、大丈夫)
何度も深呼吸をすると、落ち着いてきた。そろそろ降ろしてもらおう。そう思ってユジンに声をかけようとした時だった。
「んぇ? 何……?」
コツンと頭に何かがぶつかる。なんだろ? 目を凝らしてみると、
(首が浮いてる!?)
天井から髪の毛で吊り下がっている生首と目が合った。バチンとウインクを飛ばし、生首が喋り始める。
「モウスグキュウケイチテン」
「ふっっっぎゃああああああ」
「キル兄様!?」
きもだめし嫌い。ほんと、嫌い。怖いのは苦手なの!!
やっと休憩地点に到着した。休憩地点は洞窟の中にいくつかあるらしく、飲み物や軽食が用意されている。ここには少し明かりがあって、化け物も入ってこないようになっていた。
「キル兄様、ここで治療しましょう。少し時間がかかりそうなので、僕の膝を枕に寝転んでもらいますね」
「ん、わかった」
ユジンは僕の腰に力が入らないことに、気づいてくれていたみたい。動けないことは隠してたのにわかるなんてすごい。僕は耳かきでもしてもらうようなスタイルで、ゴロンと寝かされた。
「患部に魔法陣を描きますから、動かないでくださいね」
「はぁい」
ふふっ注意事項も耳かきと一緒でおもしろ……。こうして寝転んでいると、昔前世のお母さんに膝枕してもらったことを思い出してなんだかこそばゆい(やってもらったのは小学生までだけど)。
ユジンの膝の上、ぽかぽか温かくて安心する……。うとうとして眠くなってきた僕は、寝ないようにおしゃべりしてみることにした。せっかくだし気になっていたことを聞いてみよう。
「あのさ、ユジン」
「なんですか?」
「ユジンは、えっと、ギア=モークには会ったことある?」
「モーク伯爵令息ですね。ありますよ。剣術訓練所で剣の練習をしていたら、練習相手になってくれて」
「そうなんだ。彼のこと、どう思う?」
「え? まぁ、練習に付き合ってくれて優しい先輩だと思います。騎士団長の嫡男にふさわしい腕の持ち主で尊敬しています」
「そうなんだ」
ギア、結構いいかんじ? 剣術が得意なギアと剣の練習を通して仲良くなっていく、というのはかなりあり得そうな展開だ。
「えと、じゃあロイルは?」
「そうですね。この前ばったり食堂でお会いした時に、クライス王子の弱点を聞いてみたのですが」
「ほぇ? クライスの?」
なんで弱点!? たしかにちょっと気になるけど……。
「『弱点は特にない。強いて言うならキルナ様だよ』、と役に立たない意見をもらったくらいですね」
「へぇ……」
なんかよくわかんないけど、ロイルとはあまり仲良くないみたい。
「じゃあ、リオンは?」
「魔法訓練所でお会いしたことがあります。火魔法の効率的な使い方を丁寧に教えてくださって。その後も何度か教えてもらって感謝しています」
「そう。何度も会ってるんだ。もしかしてリオンのこと、好き?」
「好きか嫌いかと問われれば、まあ好きですが。多分兄様が期待しているような好きではないと思います」
「んぅ? そーなの?」
それならノエルのことはどう思ってるかを尋ねようとしたけれど、ユジンに胡乱な目を向けられ口を噤んだ。
「というか。なんの質問なんですか、それ」
「あ……ごめん。嫌だよね、こんなこと聞いてくるお兄ちゃんなんて。ほんとごめん……」
なんてこと。
ユジンの攻略対象者への好感度が気になるあまり、デリカシーのない兄になってしまっていた。
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