俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲

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第1話 ゴミスキルしか出ないんだが?

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 目を覚ましたら、草の上だった。

 空はやたら青くて、雲はふわふわしている。現実感がない。

「……あー、これ」

 俺は上体を起こし、伸びをした。

「死んだな」

 まぁいっか。

 前世では、日本の会社で社畜をやっていた。深夜二時まで残業して、終電を逃し、コンビニ前で立ち止まったところまでは覚えている。その先は、記憶がない。

 後悔がゼロかと言われると嘘になる。でも、もうどうしようもない。

「異世界転生ってやつだろ。テンプレ」

 そう呟いた瞬間だった。

 ピコーン。

 目の前に、半透明のウィンドウが出現する。

【ユニークスキルを獲得しました】
【無限スキルスロット】

「おっ」

 これは知ってる。いわゆるチートだ。スキルをいくらでも持てる。異世界モノの定番中の定番。

「まぁ、よくあるやつだな」

 続けて、もう一つ。

 ピコーン。

【使えないスキル特化型ガチャ】

「……は?」

 俺は説明文を読む。

【本ガチャから排出されるスキルは、すべて“一般的に役に立たない”と判断されたものです】

「堂々と書くな」

 一見使えねぇ。というか、見た目からして使わせる気がない。

 なんで特化させたんだ。神様的存在がいるなら、設計思想を問い詰めたい。

「まぁいっか」

 どうせ期待されるのは苦手だ。役に立て、活躍しろ、世界を救え。前世で散々だった。

 俺はガチャを回した。

 ピコピコピコ……ピコーン。

【スキル獲得】
【石につまずいた時、必ず左足から転ぶ】

「……」

 俺はウィンドウを閉じ、もう一度開いて確認した。

【石につまずいた時、必ず左足から転ぶ】

「方向固定されただけじゃねぇか」

 誰が欲しがるんだ、こんなの。

 転ぶこと自体は防げない。転び方だけ指定される。意味が分からない。

 それでも、少しだけ考えてしまう。

「……待てよ?」

 転び方が分かっていれば、受け身は取りやすい。怪我は減る、かもしれない。

「いや、だから何だよ」

 自分でツッコミを入れて、俺は考えるのをやめた。使えないなら、それでいい。

 俺は立ち上がり、周囲を見渡す。

 森だ。どこまで続いているか分からないが、遠くに石造りの何かが見える。街っぽい。

 とりあえず、行くか。

 英雄になる気はない。成り上がる気もない。静かに、目立たず、生きられればそれでいい。

 歩き始めて少ししたところで、またウィンドウが出た。

 ピコーン。

【新しいスキルを取得できます】

「まだ回せるのか」

 無限スキルスロットって、こういう雑な便利さなんだな。深く考えず、ガチャを回す。

 ピコピコピコ……ピコーン。

【スキル獲得】
【3秒間だけ、自分の影が少し薄くなる】

「……影?」

 一見使えねぇ。三秒しかないし、薄くなるだけ。透明でもなければ、消えるわけでもない。

「影が……ちょっと薄い……?」

 誰がどういう状況を想定して作ったスキルなんだ。

 また少しだけ考える。

「……待てよ?」

 影が薄いってことは、光源に対してズレが出る。錯覚。視線の誤差。気づかれにくくなる……かもしれない。

「いや、三秒だし」

 結論。考えるだけ無駄だ。

 そのとき、茂みがガサッと揺れた。

「……あ」

 異世界お約束その一。ゴブリンっぽい何かが三匹。緑色で、棍棒を持っている。

 目が合った。

「うわ」

 俺は即座に踵を返した。

 戦う気、ゼロ。レベルもステータスも確認していないし、する必要もない。

「逃げよう」

 全力で走った。

 ピコーン。

【スキルが自動発動しました】
【石につまずいた時、必ず左足から転ぶ】

「今じゃねぇ!」

 足元の小石。俺は見事につまずき、左足から転んだ。

「ぐぇ」

 でも、転び方が分かっていたおかげで、とっさに受け身が取れた。痛いけど、致命的じゃない。

 完全に偶然だ。

 その瞬間。

 ピコーン。

【3秒間だけ、自分の影が少し薄くなる】

「は?」

 俺の影が、ふっと薄れた。

 ゴブリンたちが一瞬だけ動きを止める。視線が泳ぎ、位置を見失ったようだった。

 俺はその隙に立ち上がり、全力で走った。

 森を抜け、しばらくしてから振り返る。もう追ってきていない。

「……助かった」

 心臓がうるさい。

 強くなったわけじゃない。倒したわけでもない。ただ、運が良かっただけだ。

「まぁいっか」

 深呼吸して、歩き出す。

 遠くに石造りの門が見えた。街だ。

 ピコーン。

【称号を獲得しました】
【謎の回避者】

「やめろ」

 誰にも見られていないはずなのに、評価だけが先に付く。嫌な予感しかしない。

 それでも。

「まぁ……住める場所があるなら、いいか」

 俺は街へ向かった。

 自分が、とんでもない勘違いの入口に足を踏み入れているとも知らずに。
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