俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲

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第6話 断らない理由

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 ギルドに通うようになって、俺は一つ学んだことがある。

 噂は、否定しても止まらない。

 掲示板の前に立つと、もう誰も声をかけてこない。代わりに、依頼書の配置が露骨に変わった。危険度なし、注意喚起、事前確認。そういう紙が、見やすい位置にまとめられている。

 俺のため、らしい。

「……頼んでないんだけどな」

 小さく呟いて、一番端の紙を取る。

【旧宿舎の立ち入り前確認】
【危険度:なし】
【備考:短時間で可】

 短時間、という言葉に惹かれた。長居しなければ、余計なことも起きにくい。

 受付に持っていくと、別の受付嬢が対応した。昨日とは違う人だが、俺を見る目が微妙に慎重だ。

「こちらの依頼ですが……」

 何か言われるかと思ったが、続きはなかった。ただ、念を押すように一言。

「無理はなさらないでください」

「最初からそのつもりです」

 依頼先は、街外れの古い宿舎だった。使われなくなって久しいらしく、窓は板で塞がれている。建物の前に立っただけで、正直入りたくない。

 ピコーン。

【新しいスキルを取得できます】

 最近、このタイミングが妙に合う。嫌な予感しかしないが、回さない理由もない。

 ピコピコピコ……ピコーン。

【スキル獲得】
【古い建物に入る前、なんとなく喉が渇く】

「……体調管理?」

 一見使えねぇ。喉が渇いたから何だという話だ。

「……待てよ?」

 乾燥しているのか、埃が多いのか。呼吸に良くない場所、という判断材料にはなる……かもしれない。

「いや、やっぱり気のせいだな」

 俺は建物の周囲を一周した。壁のひび、歪んだ柱、軋む床。中に入らなくても、情報は多い。

 入口の前に立つと、喉が一段と渇いた気がした。

「……今日は、ここまでにしよう」

 扉には触れず、依頼内容を頭の中で整理する。立ち入り前確認。危険がありそうなら、報告すればいい。それで十分だ。

 ギルドに戻ると、報告はあっさり受理された。だが、その日の夕方、追加の話が舞い込んだ。

「宿舎、今朝崩れたそうです」

 受付嬢が、事務的にそう告げる。

「雨で一気に来たみたいで」

「……そうですか」

 驚きは、なかった。むしろ、納得の方が近い。

 その様子が、まずかったらしい。

「やっぱり、見抜いてたんですね」

「いえ。入らなかっただけです」

「それが、すごいんですよ」

 評価の基準が分からない。

 ピコーン。

【称号を獲得しました】
【引き際を知る者】

「……またか」

 俺は溜め息をついた。

 ギルドを出ると、空はもう暗くなっていた。街灯の下、掲示板に新しい紙が貼られているのが見える。

【依頼:立ち入り判断】
【危険度:なし】
【条件:慎重な判断ができる者】

「断れない理由を作るなよ」

 そう思いながらも、足は止まった。

 断らない理由は、簡単だ。危険度なしと書かれている限り、俺の逃げ場はそこにしかない。

「……まぁいっか」

 誰かの期待に応えるつもりはない。ただ、無事でいるために、今日も紙を一枚剥がすだけだ。

 それが、どうやら周囲には別の意味に見えているらしい。
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