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王都・近衛騎士団編
第73話 袖触れ合うは過去の友
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「気をつけええっ!」
今日、近衛騎士に拝命されるのは僕ひとりだけ。だだっ広い騎士団本部の式典場に、ぽつりと背筋に緊張を漂わせる。
まるで海洋騎士団へ配属された日を思い出す光景だ。
5分足らずで式は終わり、その瞬間から近衛騎士としての仕事が始まる。更衣室に案内され、式典用の礼服を脱いでいると、先輩近衛騎士たちがゾロゾロと入ってきた。
「アレが急遽呼ばれたっていう騎士か……?」
「任期未満での近衛騎士団へ入団は初めてのことらしいぞ」
「何かやらかしたのか、相当な実績を挙げたかだが、強そうには見えんな」
口々に好き勝手言ってくれるものだ。僕だって好きで異動してきたわけではないのだから。
「バルト、バルト・クラスト少尉はいるか?」
更衣室の扉の向こうで誰かが僕の名を呼んだ。
「は、はい! ここに居ます!」
「良かった。君を探している人がいるからすぐに一階へ降りてくれ」
「わかりました!」
とは返したものの、知り合いなんてイシュクルテくらいだし、初日から僕の事を探す人なんて――
「バルト!! 久しぶりだね」
「なんだ、元気そうじゃねぇか」
「アレク、それにフィン?!」
2人はかつて共に騎士学校で学び、各学校対抗の闘技大会で共に戦った盟友でもある。
アレクは主席で卒業して王国聖騎士団へ、フィンは銀の騎士団へ入団していた。
「そうか、2人とも王都にいるんだったね」
「ああ、イシュクルテに聞いて飛んできたんだよ」
「ったく、俺たちには何の連絡も無いんだもんなぁ。格差酷《ひで》ぇぜ」
正直、2人とも優秀だったし、忙しいだろうと思って魔報は送らなかったのだけど、彼らは意外にも根に持っているようだった。
「わ、悪かったよ」
「言葉ではなく行動で示してもらいましょうか」
「だな! 今夜一杯付き合えよ。もちろんイシュクルテも誘ってな」
王都の騎士は案外暇なのだろうか。
◇◇◇
「本日の任務分けは以上、各自配置に着け」
初日だからと言って気を抜ける世情ではない。でも、これから数週間はずっと1人で警護任務になるようだし精神的に疲れるよなぁ。
警護対象者は有力貴族の御令嬢らしいが、一体どんな人なのか。
「失礼致します。王国近衛騎士団、バルト・クラスト少尉、警護任務のため参上しました」
「ありがとう、バルト少尉。今日はこれから婦人会へ参りますのでよろしくお願いしますわ」
「はっ! 承知致し……」
御令嬢って聞いてたんだけど、おやおや? 部屋を間違えてしまったかな?
「間違えてはいませんよ。バルト少尉」
「しゅ、シュリア王女」
小悪魔のように微笑む彼女に、またしてやられたと肩を落とす僕であった。
◇◇◇◇
この姿になってもうすぐ2年が経つ。
私を私だと認識してくれる者は、あのシレーヌとリヴァイアサンだけ。
「よぉ、そこのクラーケンさん。ちょっと手伝ってくれよ」
「……私?」
「他に誰がいるってんだよ」
この島はシレーヌが造ったと言われる魔物の国。この広い海で迷子になった魂を魔物に宿し、その力と魔力でここまで栄えた。
――と聞いている。
「いやぁ、助かったぜ。俺もアイツも人間だからよ」
「アイツ?」
「おーい! ダグラスの旦那!」
ダグラス?!
今、彼に会ったらボロが出てしまう。ここで逃げたら逆に怪しいし、なんとか誤魔化さなければ。
冷静に、冷静に……。
「手伝っていただき、ありがとうございます。クラーケンのお嬢さん」
「お、お嬢さん!?」
「ダグラスの旦那はもう見分けがつくようになったのかい」
「昔から目には自信がありますから」
知ってるよ、昔からね。
「そうかい。ああ、紹介しよう。こいつはダグラスの旦那、最近漁の仕事を手伝ってもらってるんだわ」
前を向いて働いているのね。さすがと言うべきなのか、とにかく元気そうで良かった。
「そういや、旦那は人間の女を探しているんだったか」
「はい。私の上司で、昔からの友人なのです」
「そう、なの……」
「何か情報が入ったら教えてやってくれよ」
「わかりました」
もう人間には戻れないのだし、誰にも知られなくて構わない、そう思っていた。
――それでも、彼はずっと私を探していたんだ。
今日、近衛騎士に拝命されるのは僕ひとりだけ。だだっ広い騎士団本部の式典場に、ぽつりと背筋に緊張を漂わせる。
まるで海洋騎士団へ配属された日を思い出す光景だ。
5分足らずで式は終わり、その瞬間から近衛騎士としての仕事が始まる。更衣室に案内され、式典用の礼服を脱いでいると、先輩近衛騎士たちがゾロゾロと入ってきた。
「アレが急遽呼ばれたっていう騎士か……?」
「任期未満での近衛騎士団へ入団は初めてのことらしいぞ」
「何かやらかしたのか、相当な実績を挙げたかだが、強そうには見えんな」
口々に好き勝手言ってくれるものだ。僕だって好きで異動してきたわけではないのだから。
「バルト、バルト・クラスト少尉はいるか?」
更衣室の扉の向こうで誰かが僕の名を呼んだ。
「は、はい! ここに居ます!」
「良かった。君を探している人がいるからすぐに一階へ降りてくれ」
「わかりました!」
とは返したものの、知り合いなんてイシュクルテくらいだし、初日から僕の事を探す人なんて――
「バルト!! 久しぶりだね」
「なんだ、元気そうじゃねぇか」
「アレク、それにフィン?!」
2人はかつて共に騎士学校で学び、各学校対抗の闘技大会で共に戦った盟友でもある。
アレクは主席で卒業して王国聖騎士団へ、フィンは銀の騎士団へ入団していた。
「そうか、2人とも王都にいるんだったね」
「ああ、イシュクルテに聞いて飛んできたんだよ」
「ったく、俺たちには何の連絡も無いんだもんなぁ。格差酷《ひで》ぇぜ」
正直、2人とも優秀だったし、忙しいだろうと思って魔報は送らなかったのだけど、彼らは意外にも根に持っているようだった。
「わ、悪かったよ」
「言葉ではなく行動で示してもらいましょうか」
「だな! 今夜一杯付き合えよ。もちろんイシュクルテも誘ってな」
王都の騎士は案外暇なのだろうか。
◇◇◇
「本日の任務分けは以上、各自配置に着け」
初日だからと言って気を抜ける世情ではない。でも、これから数週間はずっと1人で警護任務になるようだし精神的に疲れるよなぁ。
警護対象者は有力貴族の御令嬢らしいが、一体どんな人なのか。
「失礼致します。王国近衛騎士団、バルト・クラスト少尉、警護任務のため参上しました」
「ありがとう、バルト少尉。今日はこれから婦人会へ参りますのでよろしくお願いしますわ」
「はっ! 承知致し……」
御令嬢って聞いてたんだけど、おやおや? 部屋を間違えてしまったかな?
「間違えてはいませんよ。バルト少尉」
「しゅ、シュリア王女」
小悪魔のように微笑む彼女に、またしてやられたと肩を落とす僕であった。
◇◇◇◇
この姿になってもうすぐ2年が経つ。
私を私だと認識してくれる者は、あのシレーヌとリヴァイアサンだけ。
「よぉ、そこのクラーケンさん。ちょっと手伝ってくれよ」
「……私?」
「他に誰がいるってんだよ」
この島はシレーヌが造ったと言われる魔物の国。この広い海で迷子になった魂を魔物に宿し、その力と魔力でここまで栄えた。
――と聞いている。
「いやぁ、助かったぜ。俺もアイツも人間だからよ」
「アイツ?」
「おーい! ダグラスの旦那!」
ダグラス?!
今、彼に会ったらボロが出てしまう。ここで逃げたら逆に怪しいし、なんとか誤魔化さなければ。
冷静に、冷静に……。
「手伝っていただき、ありがとうございます。クラーケンのお嬢さん」
「お、お嬢さん!?」
「ダグラスの旦那はもう見分けがつくようになったのかい」
「昔から目には自信がありますから」
知ってるよ、昔からね。
「そうかい。ああ、紹介しよう。こいつはダグラスの旦那、最近漁の仕事を手伝ってもらってるんだわ」
前を向いて働いているのね。さすがと言うべきなのか、とにかく元気そうで良かった。
「そういや、旦那は人間の女を探しているんだったか」
「はい。私の上司で、昔からの友人なのです」
「そう、なの……」
「何か情報が入ったら教えてやってくれよ」
「わかりました」
もう人間には戻れないのだし、誰にも知られなくて構わない、そう思っていた。
――それでも、彼はずっと私を探していたんだ。
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