王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま

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「まだスープあるわ、いかが? 姉さんは?」
「ありがとう。もうお腹いっぱい」
 
 外から鳥の囀りが聞こえてくる。質素だが掃除の行き届いている古い石造りの家には、スープの香りに混じって干し草のような匂いがしていた。
 声をかけたほうの女—— 歳の頃は20代前半だろうか、ややふくよかな体つきをしたその人は、おだやかに微笑み自分の隣に座る、いくらか年上と思われる、がっしりとした男の深皿にスープをそそぐ。

「最近、何か良い話ある?」

 断ったほうの女が聞いた。妹によく似た面差しだったが、ずっと細身で話す速度も早い。

「なんもねえな」

 聞かれた男がスープを口にしながら言う。

「そう……」
「ああ、あれか。夏の城に王妃が来てるくらいだな。追い出されたとかいう」
「たまに、お野菜とか買って下さるみたいね。うちは畑やってないから関係ないけど」
 
 妹のほうが皿を片付けながら、夫の言葉に付け足した。

「あ、トーネ、手伝うわ」
「いいわよヒルダ姉さん。こちらが誘ったんだから」
「何言ってるの。お昼ご飯ごちそうになっただけじゃ悪いでしょ。あなたのご主人が次は誘うのを嫌がるかもしれないじゃない」

 そう言って立ち上がる。

「そんなこたあ、言わん」
「冗談よ。さあ、洗っちゃいましょう。あなたもさっさと食べてよ」

 妹の旦那に口悪く言うが、言われたほうも気にしたそぶりもなくスープを飲み干すと、コップのワインに口をつける。

「うちも、畑でもしとけばよかったな。少しは足しになったろうに」
「たかが知れてるわ」
「ヒルダは、少し作ってなかったか?」
「自分で食べたら終わりよ。見よう見まねでやってるだけ」

 そう言いながらテーブルの上の皿を下げると、勝手知ったるといった体で手際よく片付けた。


 ヒルダはほどなく妹の家を出た。村はずれの自分の家に向かいながら、長居したところで良いこともないし、と思う。風が吹いていたがやや暑いくらいの天気で、空を見上げると青い空に太陽が眩しく、立ち止まって目を細めた。
 と、道の向こうから聞き慣れない人声がするのに気づいた。不審に思い道から外れて木の陰から覗いていると、数人の集団が歩いて来た。二人の騎士らしい男性と女性が三人。全員が身なりが整っていたが、特に女性のうちの一人は派手ではないが庶民とは思えない衣服を身につけており、遠目にも身分の高さが推察された。

「……え、まさか。王妃様⁈ なんで⁈」

 驚くヒルダの前をその一団は、賑やかに話しながら通り過ぎて村の中に入っていく。ヒルダはその後ろ姿が見えなくなってから別の道から村へ戻った。驚きと不安を抱えながら。


 思った通り、王妃と思われる人たちは村長の家に招かれていた。ヒルダはさっきまでいた家に裏口からそっと入る。台所でトーネが慌てた様子でお茶の用意をしていた。

「姉さん! よかった戻ってきてくれて。どうしよう、王妃様がお見えなの、どうしよう」
「私も帰る途中で見かけて戻ってきたのよ」
「どうしよう、どうしよう。こんなことならもう少し掃除しとけばよかった!」
「問題は何をしに来たかよ。ただの暇つぶしの物見遊山ならいいけど。……村長がヘンな事言わなければいいけど、大丈夫?」
「わかんないわ、そんな事」
「旦那見張っておいてよ」

 そう言いながらヒルダは妹に戸を開けてあげた。トーネは盆にお茶のセットを載せると運ぶ。ヒルダ自身はそのまま台所に残り、聞き耳をたてていると、野太い声がした。トーネの夫で村長のオッドだ。先程までの少々なげやりな話し方ではなく、暑苦しいくらい張り切っているのが伝わってくる。

「お越しくださり光栄でございます、王妃様。このような小さな村ですが、我が村の歴史は古く、王直轄領としてお取り計らいいただいておりまして、あー、あーそのような村にご足労いただいて恐悦至極でございます。必要なものなどなんなりと言っていただければ、あの……」

 最後かなりたどたどしくなってきたな、と、ヒルダが思うと同時くらいに、オッドの言葉を断ち切るような強めの固い女性の声がした。

「歓迎はありがたいながら、今回は村を見てみたいというのが王妃様のお望みです。特に必要なものはありませんが、村の中を案内いただけるならありがたい」
「もちろんでございます。お……わたくしが案内いたします。お前も来い、トーネ。王妃様、家内のトーネです」

 トーネの挨拶の声は小さかったのか、聞こえてこなかった。そのうちがやがやと人が出ていく気配がして、家の中が静かになった。

 ヒルダはしばらくしてから、それでもなるべく音を立てずに台所を出る。そのまま戸口から覗くと連れ立って歩く一団が見えた。
 どうしようか、と思ったが、距離を保ちながら後ろから着いていくことにした。口をだすのはオッドが嫌がるからしたくないが、トーネが心配だった。ずっと下を向いて歩いている。人見知りのトーネには辛いだろう。いったい何しに来たんだ王妃は、と思うと、ヒルダは少しばかり腹が立ってくるのだった。


 


 

 
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