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昼寝部

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2章 芸能界復帰編

天才、夏目凛との出会い 2

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~愛甲真奈美視点~

 あれから数日が経過し、凛くんとの交流が増えた。

「へー。真奈美は小1の頃から子役として頑張ってるのか」
「うん!凛くんもそうでしょ!?」
「そうだな。俺も小1の頃からだ。まぁ、俺の場合、活動を休止して祖母のところで演技や歌の練習をする期間があったから、真奈美よりも活動期間は少ないけどな」

 そんな他愛もない話をするほど仲が良くなった私だが、演技の方は全く上手くいかなかった。

(うぅ~、監督から修正ばかりだよぉ……)

 撮影中、私は何度も監督から修正を言い渡され、不甲斐ない演技ばかりを繰り返していた。
 それに対して、凛くんが修正をお願いされることはほとんどない。
 これだけで私は凛くんとの実力差を痛感する。
 そのため、お母さんからの対応は冷たかった。

「真奈美、今日も監督からの修正が多かったわね。練習が足りないんじゃないの?今日は私の合格が出るまでご飯抜きよ」
「……うん、部屋で練習してくるよ」

 そんな感じで、お母さんから厳しい演技指導を受ける日々が続いた。



 『マルモのおきてだよ』の撮影が全て終了し、クランクアップを迎えた。
 お母さんの厳しい練習のおかげか、徐々に監督からの修正は少なくなり、最終的には自分が納得する演技ができた。
 しかし、私以上に凛くんの演技が素晴らしかったため、監督やスタッフは私のことを褒めず、凛くんばかりを褒めていた。
 そして『マルモのおきてだよ』を視聴した視聴者も凛くんの演技を絶賛した。

 そのため…

「真奈美。夏目くんができるのだから、これくらいの演技はできないとダメよ。同じ小学5年生なのだから」
「……うん、頑張るよ」

 事あるごとに凛くんと比べられるようになった。



 そんな日々を過ごす中、私と凛くんが歌った『マルマルモリモリ』が大ヒットした。
 理由は凛くんの歌声が素晴らしいから。

「真奈美。夏目くんの歌唱力に負けてるわ。今日も凛くんばかり褒められてたじゃない。これから歌番組に出演する機会が増えるのだから、歌のレッスンも増やすわよ」
「……うん。ありがとう、お母さん」

 『マルモのおきてだよ』の撮影が終わっても、お母さんからの態度は変わらなかった。



 そんなある日のこと。
 私は凛くんを誰もいない部屋に呼び出し、あることを告げた。

「私ね、芸能活動を辞めようと思うんだ」
「……え?」

 私の言葉に凛くんが目を見開いて驚く。

「私、凛くんみたいな才能がないみたいなんだ。どれだけ頑張っても凛くんみたいに褒められない。お母さんだって、私の不甲斐ない演技や歌に呆れてるからね」

 不甲斐ない自分を暴露しているため涙が出そうになるが、グッと堪えて話し続ける。

「凛くんばかり応援されて、お母さんにも見放されてる。そんな私を応援してくれる人なんて誰もいない。誰も私の演技や歌を見てくれないんだ。だから私は芸能界を辞めるよ」

 私は凛くんに自分の意思を伝える。

「そのことは真奈美のお母さんに伝えたのか?」
「ううん、まだ伝えてないよ」

 何故かは分からないが、何故か1番最初に凛くんへ話したいと思った。

「そうか。ならまだ芸能界を辞めたわけじゃないんだな」
「そうだけど……私はもう辞めるよ?」

 私は凛くんの発言に首を傾げる。
 そんな私に凛くんは口を開く。

「いくつか真奈美に言いたいことがある」

 そう前置きして凛くんは話し始める。

「まず俺に才能はないぞ」
「ううん、凛くんは才能の塊だよ。だって、努力なんかしなくても周囲の人たちから褒められるんだから」

 私は凛くんが努力してるところを見たことがない。
 だから私が家でお母さんに怒られながら練習している間、好きなことをして過ごしているはず。
 そう思うと凛くんが羨ましく思う。
 すると、「はぁ」というため息が聞こえてくる。

「俺が努力してないだと?そんなわけないだろ」

 そして呆れながら私に言う。

「俺が昔、活動を休止して祖母の家に行ったことを話しただろ?」
「うん。確か、そこで演技と歌の特訓をしたんだよね?」
「あぁ。そこで俺はお婆ちゃんから自衛隊の訓練なんじゃないかと勘違いするほどの特訓を受けた。それこそ、寝る間も惜しんで頑張ったぞ」
「………そうなの?」
「あぁ。この話は誰にもしてないが、俺のお婆ちゃんって有名な女優なんだ。全国民が知ってるくらいの」
「えっ!そうなの!?」

 それは初耳だ。
 それと同時に納得してしまう。
 あの演技力はお婆ちゃん仕込みなんだということを。

「そして歌に関しては、俺の母さんが教えてくれた。だから、俺は努力せず才能だけで活動してきたわけじゃないんだ」
「そ、そうなんだ……」

 どれだけ頑張ったかは分からないけど、凛くんが私以上に頑張ってることは理解できた。

「それともう一つ、真奈美に言いたいことがある」
「……?なにかな?」

 私は凛くんの言葉に見当がつかず、首をかしげる。

「真奈美のことを誰も見てないと思ってるなら大間違いだ。俺ばかり応援されてると言うのも間違ってる。だって真奈美のことを見てる人はいるからな」
「っ!嘘だよ!私は凛くんの影に隠れて誰も見てないよ!」

 私はつい声を荒げてしまう。
 みんなから応援される凛くんに言われ、腹が立ってしまったから。

「いいや、見てる人はいるぞ。少なくとも1人はな」
「だれ!その1人って!」
「俺だ」
「っ!」

 凛くんが堂々と言う。

「真奈美の演技や歌を誰が1番近くで見てきたと思ってる。真奈美が日を重ねるごとに上達しているのは隣で見続けた俺は気づいてるぞ」
「凛くん……」

 その言葉に心が温まる。

「きっと、家で頑張ったんだろうなと毎日のように思った。そして、真奈美に負けてられないって毎日のように思わされた。だからさ、真奈美。誰も見てないとか言うなよ」
「うぅ……」

 私は凛くんの言葉に涙が溢れてくる。

(私なんか誰も見てないと思ってた。でも、凛くんは私を見てくれた。どんな時も見てくれてたんだ……)

「うぇ!ま、真奈美!?な、何で泣いてるんだ!?」

 私の涙を見て、凛くんがあたふたする。

「ぐずん……な、なんでも……ないよ……」

 私は凛くんに心配をかけないよう、涙を引っ込めようとするが、全然引っ込まない。
 それどころか、どんどん溢れてくる。

「ご、ごめんね。な、涙が勝手に……っ!」

 私が凛くんに涙の理由を説明している時、凛くんが“ガバっ!”と、私の身体を抱きしめる。

「り、凛くん!?」
「だ、抱きしめると泣いてる女の子は絶対に泣き止むって寧々が言ってたからな。だからその……気の済むまで泣いて良いぞ。今まで真奈美は頑張ってきたんだから」
「うぅ……うわぁぁぁんっ!」

 私より少し背の大きい凛くんに抱きしめられた私は、凛くんに頭を撫でてもらいながら泣き続けた。
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