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3章 大学入学編

鷲尾の家族に乾杯 5

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 氷鶴さんと翔太の2人と別れ、俺は紺色の着物を着込んで街を歩く。

「見て!リン様が着物を着てるよ!」
「カッコよすぎっ!めっちゃ似合ってる!」
「着物が似合う男性って素敵ー!」
「テレビや写真で見るよりもカッコいいよっ!」

 その際、周りからたくさんの黄色い声が聞こえてくる。

「あはは……ありがとう」

 その声に苦笑いしながら収録を終えるため、鷲尾さんとの集合場所へ向かう。
 そして数分ほど歩き、鷲尾さんと合流する。

「お、着物を着たんだ。とても似合ってるよ」
「ありがとうございます」

 鷲尾さんが再会と同時に着物姿を褒めてくれる。

「京都の街はどうだった?」
「そうですね、とても面白かったです」
「うんうん、それなら良かったよ。この旅で夏目くんにどんな出会いがあったかは放送されるまで聞かないようにするから。楽しみにしてるよ」
「とても良い出会いがありましたので、楽しみにしてください!」

 そんな会話をして鷲尾さんが締めの言葉をカメラに向けて言う。

 こうして、『鷲尾の家族に乾杯』の収録が終了した。



「お疲れ様、凛くん」

 収録を終え、着物を氷鶴さんのもとへ返した後、国枝さんが俺のもとにお茶を持って現れる。

「ありがとうございます」

 俺は国枝さんからお茶を受け取り、一口飲む。

「無事、収録が終わったな。とても良い旅だったぞ」

 俺の旅に国枝さんは同行していたので、どんな旅だったかは把握している。

「終始、凛くんが女の子から黄色い声をかけられ、出会った女の子と触れ合うだけの旅だったが」
「それは言わないでください。俺も薄々思ってますから」

 今回の旅で関わった男性は、ドーナツを売ってくれたお爺ちゃんと翔太の2人だけ。
 それ以外は氷鶴さん含め、全員女の子という奇妙な旅だった。

「まぁ、それを俺は期待してたから問題ないけどな。持ち前のイケメン力を存分に発揮してたし」
「持ち前のイケメン力って顔だけしか取り柄がない人みたいですね」
「ははっ、そうだな」

 そう言って国枝さんが豪快に笑う。

「でも俺は性格もイケメンだと思ってるぞ。特に、お母さんのために一所懸命頑張ったことはな」

 昔の俺は、病気で弱っている母さんのために子役として活動を頑張っていた。
 そんな俺を国枝さんは側で見てくれた。

「凛くんが芸能界を辞めた理由は理解している。だからこそ、復帰してほしいとは言えなかった。でも、凛くんは芸能界に復帰した。その理由を聞かせてくれないか?」

 国枝さんが真面目な顔で問いかける。

(その理由を知りたかったから、今回俺に依頼したのかもしれないな)

 そんなことを思いながら、俺は真剣な表情で告げる。

「妹の寧々から『芸能界で活躍するお兄ちゃんを見るのが好きだった』『お兄ちゃんのことを応援し続けるから復帰してほしい』って言われたんです」

 俺は寧々から言われた言葉を思い出しながら国枝さんに伝える。

「俺のことを側で応援してくれる人がいる。それを知って、俺は復帰を決意しました」

 そして真っ直ぐな瞳で国枝さんに言う。

「なるほど……良い妹さんだ」

 俺の返答を聞いて頬を緩ませる国枝さん。

「そうですね。俺には勿体ないくらい良い妹ですよ」

 寧々の策略によって復帰せざるを得ない状況にはなったが、今では寧々に感謝してるくらいだ。

「芸能界に復帰してどう思った?」
「そうですね。心の底から芸能界に復帰して良かったと思ってます。国枝さんや芸人の下田さん、そして昔から俺のことを応援してくれた真奈美や桃ちゃんが復帰したことを喜んでくれましたから」

 そこで一拍置いて、俺は自分の決意を伝える。

「だから俺はみんなが応援してくれる限り、絶対に引退しません。こんな俺ですが、これからもよろしくお願いします!」

 そう言って俺は国枝さんへ頭を下げる。

「あぁ。凛くんの想い、伝わったよ。これからもよろしくな」
「はいっ!」

 俺は国枝さんと握手して、矢上さんのもとへ向かった。



「収録、お疲れ様でした!」
「矢上さんもお疲れ様でした。俺をサポートするために走り回ってたと聞きました」
「それくらい大したことありませんよ!」

 運転しながら矢上さんが答えてくれる。

「明日は事前にお伝えしたように、大人気アイドルの小鳥遊美奈たかなしみなさんとのCM撮影です。明日は大学の講義が休みと聞いてますので、朝9時ごろお迎えに行きますね」
「ありがとうございます」

 そんな会話をしながら矢上さんの運転で家に帰った。
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