髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部

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2章 芸能界デビュー編

『モリタの秘境巡り』の撮影 2

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 江本さんとモリタさんとの会話を終えた俺は神里さんのもとへ向かい、最終確認を行う。

「――との流れになるようです。頑張ってくださいね!」
「はいっ!」

 俺は気合を入れて返事をする。
 そのタイミングで「撮影を始めるぞ!」との江本さんの声が響き渡る。
 俺は急いで江本さんのもとへ向かい、指示を待つ。

「今から目指すのは神奈川県にある千条の滝という場所だ。高さ約3mの岩盤を幅20mに渡って、水が幾筋もの細い流れとなって落ちることからこの名前が付けられたらしい」

 予め資料に書かれていることを説明する江本さん。
 そして詳しく今から撮影する流れを説明する。

「じゃあ撮影を始めようか」

 その言葉でカメラが回り出し、モリタさんがオープニングトークを始める。

「今日は神奈川県にやって来ました。ここは賑やかで良いところですね」

 当たり障りのない会話を行い、今の状況やこれから向かうところを説明する。

「さて今日のゲストを紹介します。今日は先日、『読者モデル』Styleスタイルで表紙を飾り、一躍有名人となったモデルのクロくんです」
「よろしくお願いします!」

 モリタさんの紹介に併せて俺はカメラの前に移動する。

「クロくんは神奈川県に来たことある?」
「何回かあります。ですが今日行くところは初めてなのですごく楽しみです」
「それなら良かった。地域の方たちとの交流もこの旅の醍醐味だからたくさんの方々と関わろうね」
「はいっ!」

 こうして千条の滝を目指して移動を始めた。



 モリタさんと千条の滝に向かうため、公園を出発する。
 この番組はロケバスで目的地に向かいつつ、出会った方々と触れ合うことが醍醐味の一つ。
 そのため、ロケバスが停まっている駐車場まで俺たちはすれ違う人たちと触れ合いながら向かう。

「モリタさん!今日は何処に行くんだ!?」
「今日は千条の滝まで行きます」
「おぉー、千条の滝か!あそこは空気が美味しくていいところだぞ!」

 等々、モリタさんがすれ違うお年寄りたちと会話をする。

 対する俺は…

「写真で見るよりもカッコいいですね!」
「私、クロ様のファンです!応援してます!」
「ありがとうございます。皆さんの声援を力に頑張りますね」

 そう言って笑顔を向けると「「きゃぁっ!カッコいいっ!」」と容姿を誉めてくれる。
 そんな感じで若い女性を中心に交流していた。

「さすがクロくんだね」
「あはは……」

 その様子を側で見ていたモリタさんに苦笑いで返事をする。
 そんな会話をしながら駐車場にたどり着いた俺たちはロケバスに乗り込み出発する。
 車の中でも当たり障りのない話をして場を繋ぐ。
 ちなみに俺の父さんが昔、芸能界で活躍した白哉であることは来週収録する『モリトーク』で話すため、今回は触れないようにする。

 俺たちが当たり障りのない会話をしていると、車が渋滞に引っかかる。

「どうやら事故があったみたいです。到着が遅くなりますが、何事もなかったかのように話を続けてください」

 スマホを使い渋滞の原因を調べた江本さんが俺たちに告げる。
 そのため俺たちは何事もなく会話を続けていると、渋滞中の車に走り、運転席を“コンコンっ!”とノックする男性が目に入る。
 その人は真剣な表情で頭を下げながら何かを言っている。
 そして他の渋滞中の車にも同様のことを行っていた。

(頭を下げられた車が端に寄ってる………まさかっ!)

 ふと父さんが救急車で運ばれるところが頭をよぎる。
 俺の父さんは運ばれている途中、運悪く渋滞に引っかかり、病院への到着が遅れた。
 その体験から、とあることが脳裏をよぎる。

(もしかしたら重症の方が車に乗ってるかもしれない!)

 よほどのことがない限り、渋滞中の車に頭を下げて道を譲ってもらうようなことはしない。
 それほど急を要する事態が起きてると思い、俺はモリタさんへ話しかける。

「あの男性、先ほどから渋滞している車に頭を下げて回ってますね」
「そうだね。何かあったのかな?」
「だと思います。俺、少し話を聞いて来ます!困っているようなら手助けをしたいので!」

 そう言って立ち上がる。

「カメラは回さなくて大丈夫です。これは俺がやりたいことですから。あの男性のもとへ行ってもいいですか?」

 モリタさんや江本さんから止められたら俺は座り直す予定だったが…

「何かあったのかもしれない。僕も行くよ。いいよね、江本さん?」
「分かりました。撮影は一旦中止します」

 その返事を聞いて俺はロケバスを飛び出す。
 遅れてモリタさんも降りて来た。
 俺はモリタさんを待たずに走り出し、運転手へ頭を下げた直後の男性へ声をかける。

「すみません。何かあったんですか?」
「はぁはぁ……あ、クロさん?」

 俺が近くにいたことにも気づかないくらい必死な男性。

「皆さんに頭を下げていたので不思議に思いました。何かあったんですか?」
「それが妻の陣痛がひどくて産婦人科に向かってる途中なんです。しかも妻が産まれそうって言ってて。だから道を譲ってくれるようお願いしてるところなんです」
「なんだって!」

俺の想像していた事態とは全然違ったが、急いで道を譲らなければならない案件だ。
 そのタイミングでモリタさんが到着する。

「なるほど、話は聞かせてもらったよ」
「モリタさん!?」

 モリタさんの登場は想定外のようで、声を上げて驚く男性。

「見たところ渋滞は数キロほど続いている。ここに救急車を呼んでも来るまでに時間がかかりそうだね」
「救急車は呼んでますが到着まで時間がかかりそうだと……」

 そう思い、譲ってもらう方法を取ったらしい。
 それを聞き、俺は行動に移る。

「なら俺も手伝います」
「……え?いいのかい?」
「はいっ!もちろんです!」

 俺は力強く返事をする。

「じゃあ、俺は続きの方に道を譲ってもらうようお願いしてきます!モリタさんはここで……」
「何を言ってるんだい、クロくん。もちろん、僕も手伝うよ。僕はこの辺りの人にお願いするから、クロくんは前に停まってる車にお願いしてきて」
「分かりました!」

 そう返事をして走り出す。

 涙声を震わせながら聞こえてきた「ありがとうございます……っ!」という言葉を背中に受けながら。
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