普段高校生ゲーム実況者として活動している俺だが、最近仲良くなりつつあるVTuberが3人とも幼馴染だった件について。

水鳥川倫理

文字の大きさ
10 / 29
第1章

第9話、幸せの紙袋と、夕暮れの帰り道。

しおりを挟む
俺が何気なく尋ねると、ソファでスマホをいじっていた美波が顔を上げた。

「……あ」
「ん? どうした美波」

美波はスマホの画面を俺たちに向けた。そこに映っていたのは、とあるゲーミングデバイスメーカーの広告だった。

『大人気ストリーマー・椎崎×Z-Key 数量限定コラボキーボード&マウス 発売! 本日より秋葉原特設ストアにて先行販売開始!』

俺の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
そうだ。忘れていた。数ヶ月前にメーカーから依頼があって監修したデバイスが、今日発売だったのだ。

「これ……椎崎さんとのコラボデバイス。今日発売……」
「えっ! 嘘、今日!? やばい、私完全にノーマークだった!」

七瀬が飛び起きて画面を覗き込む。

「美波、これ欲しいの?」
「……うん。絶対欲しい。このキーボード、椎崎さんが打鍵感にこだわったって配信で言ってた……」

美波の瞳が、普段見せないような熱量で燃えている。俺は冷や汗が背中を伝うのを感じた。

「あら、椎崎さんって、碧がよく見ている実況者よね? 私も気になっていたの」

椎名まで興味津々だ。

「えっ、椎名も?」
「ええ。最近、私も少しPCゲームを始めたでしょう? 前に使っていたキーボードの反応が悪くて、買い替えようと思っていたのよ。どうせなら、評判の良いこれにしようかしら」

まじかよ。俺の監修したキーボードを、幼馴染たちがこぞって買いに行く?
公開処刑に近い状況だが、ここで「行きたくない」と言えば逆に怪しまれる。

「あー、俺も……まあ、ちょっと興味あるかな」
「でしょ!? じゃあ決まり! 秋葉原行こ!」

七瀬が拳を突き上げる。

「私も、ついでにアニメイト行きたい! 今期のアニメのグッズ、今日が入荷日なんだよね!」
「……私も、VTuberのグッズショップ寄りたい」

どうやら、今日は秋葉原でのショッピングツアーになりそうだ。

「よっし! じゃあみんなで電車に乗って秋葉原に行くか!」
「おー!」

俺の号令に、三人は嬉々として支度を始めた。
俺はクローゼットから目立たない色のジャケットを選びながら、心の中で「バレませんように」と祈った。

***

最寄り駅までの道のりは、休日の穏やかな空気に包まれていた。
駅のホームにあるコンビニ(NewDays)の前で、俺たちは足を止めた。

「飲み物買おうぜ」

俺の提案に、それぞれが商品を手に取る。
七瀬は紙パックのリンゴジュース。
椎名は微糖のボトルコーヒー。
美波はストレートティー。
そして俺は、千葉・東京エリアの魂の飲料、黄色いパッケージの『MAXコーヒー』だ。

「碧、またそんな甘そうなものを……」

椎名が呆れ顔で言うが、この練乳たっぷりの甘さこそが、疲れた脳(昨晩の配信疲れ)には効くのだ。

「糖分補給は大事だぞ」

ICカードを改札にタッチし、ホームへと降りる。
電車を待つ5分ほどの間も、三人のフォーメーションは崩れない。
俺の右腕には美波がしがみつき、左側には椎名が寄り添い、正面からは七瀬が俺のジャケットのボタンをいじりながら話しかけてくる。

「ねえねえ、秋葉原行ったらさ、クレープも食べたい!」
「さっきフレンチトースト食べたばかりでしょう?」
「甘いものは別腹だもん!」

電車が到着し、俺たちは車内へ乗り込んだ。
休日の昼時ということもあり、車内はそこそこ混雑している。俺たちはドア付近のスペースに固まった。
揺れる車内で、俺を中心にしてお互いを支え合うような形になる。

「……ん」

美波が俺の手をぎゅっと握ってくる。俺も握り返すと、彼女は嬉しそうに口元を緩めた。
七瀬は窓の外を流れる景色を見ながら、「あ、あそこの看板変わった!」とはしゃぎ、椎名は揺れるたびに俺の肩に身体を預けてくる。その温もりと、ふわりと香る石鹸の香りに、俺は少しドキリとした。

「久しぶりにみんなとお出かけできてよかったね!」

美波が小さな声で呟く。

「そうだな。最近みんな部活とか生徒会で忙しかったしな」
「また、みんなでいろんなところ行きたいよね!」

七瀬が笑顔で振り返る。

「そうね。次は海か、あるいは山へ紅葉狩りもいいかもしれないわ」

椎名が未来の計画を口にする。
他愛のない会話をしているうちに、電車は都心へと近づいていき、やがてアナウンスが流れた。

『次はー、秋葉原、秋葉原です』

電車を降り、電気街口の改札を抜ける。
そこは、まさに「異世界」への入り口だった。
駅前の広場には多くの人が行き交い、巨大なビルボードには美少女キャラクターのイラストや、最新のGPUの広告が極彩色で躍っている。
街全体から発せられる熱気と電子音が、肌をビリビリと刺激した。

「着いたー! アキバー!」

七瀬が両手を広げる。

「まずは、美波と椎名のお目当てのデバイスショップだな」

俺たちは大通りを歩き、PCパーツやデバイスを扱う大型専門店へと向かった。
店に入ると、入り口の一等地に特設コーナーが設けられていた。

黒とネオンブルーを基調とした、クールなデザインのディスプレイ。
そしてそこには、俺のストリーマーとしてのアイコンである「フードを目深に被ったシルエット」のパネルが飾られていた。

『椎崎 × Z-Key コラボモデル ここに見参!』

「うわっ、すごっ……」

思わず声が出た。自分のアイコンがこんなに大々的に飾られているのを見るのは、なんだか恥ずかしいというか、尻の座りが悪い。

「あった……! これ!」

美波が駆け寄り、展示されているキーボードに触れる。

「……このキータッチ。浅すぎず、深すぎず……戻りの速さが絶妙。椎崎さんのプレイスタイルに最適化されてる……」

美波がブツブツと専門的な感想を漏らしながら、恍惚の表情でキーを叩いている。

「へぇ、デザインもスタイリッシュで素敵ね。黒のボディに、バックライトの青が映えるわ」

椎名も実物を手に取り、感心した様子だ。

「店員さん、これとこれ、ください」
「私もいただくわ」

二人は迷うことなく、そこそこ高価な(俺の監修料も入っているからな……)キーボードとマウスのセットをレジへと持って行った。

「碧は買わないの?」

七瀬に聞かれ、俺はブンブンと首を振った。

「い、いや、俺はまだ今のやつ使えるし! 見るだけでいいや!」

自分が監修したキーボードを自分で買う姿を想像し、さらにそれを店員に見られるリスクを考えると、とても手が出せなかった。

「ふーん? まあいいけど。じゃあ次は私の番ね!」

無事に「推し」のデバイス(製作者は目の前にいるが)を手に入れた美波と椎名を連れて、次は七瀬のお目当てのアニメショップへ。
七瀬がハマっているのは、最近流行りのバトルファンタジーものだ。

「きゃー! カッコいい! この缶バッジ、絶対レア出るまで引く!」

七瀬はトレーディング缶バッジの箱を物色し始めた。

「七瀬、お小遣い大丈夫か?」
「大丈夫! 今日はこのために貯めてきたんだから!」

その後、美波の要望でVTuberの専門店へ。
普段はクールな美波だが、ここでは目の色が違った。

「……あ、このアクスタ、新作。かわいい」
「……このフィギュア、造形がいい。買う」

美波が次々とカゴにグッズを入れていく。
椎名も「あら、このキャラクター、デザインが可愛いわね」と、意外にも楽しんでいるようだ。
俺は荷物持ちとして、徐々に増えていく彼女たちの戦利品が入った袋を持たされていた。

気付けば、時刻は13時30分を回っていた。
歩き回ったせいで、朝のフレンチトーストは完全に消化されている。

「そろそろお昼にしないか?」

俺の提案に、三人が同時に腹の虫を鳴らした(椎名は赤面して顔を背けた)。

「ラーメン! ラーメン食べたい! こってりしたやつ!」

七瀬が叫ぶ。秋葉原といえば、やはりガッツリ系の飯だ。

「仕方ないわね。七瀬のリクエストなら」
「……私も、ラーメン賛成」

向かったのは、黄色い看板が目印の『野郎ラーメン』だ。
おしゃれなカフェではなく、あえてここを選ぶのが俺たち流だ。

「いらっしゃいませー!」

活気ある店内に、制服姿ではない美少女三人と男一人の奇妙なグループが入店する。
俺たちはテーブル席に案内された。

「えーっと、私は『豚野郎』のニンニク増し!」

七瀬が迷わず注文する。

「な、七瀬……明日学校だぞ? 臭い大丈夫か?」
「ブレスケア飲むから平気!」

椎名は少し躊躇ったが、「……郷に入っては郷に従え、ね」と呟き、普通のラーメンを注文した。美波も同様だ。俺はもちろん、ガッツリと全部乗せを頼んだ。

やがて運ばれてきた山盛りのラーメン。

「いただきまーす!」

七瀬は豪快に麺を啜る。その食べっぷりは見ていて気持ちがいい。
椎名はレンゲと箸を使い、ラーメンですら優雅に食べている。
美波は無言で、ひたすらもぐもぐと口を動かしている。

「んー! この背脂がたまんないね!」
「……意外と、癖になる味ね。悪くないわ」

満腹になるまで食べ、店を出る頃には全員の顔が少し脂でテカっていたが、それもまた充実感の証だ。

その後も、レトロゲームの店を覗いたり、家電量販店でマッサージチェアに座って休憩したり(椎名が「極楽ね……」と呟いていた)と、秋葉原を満喫した。

15時を過ぎた頃。
両手に紙袋を抱えた俺たちは、駅前に戻ってきた。

「そろそろ帰るか!」
「うん! 満喫したー!」
「ええ、いい買い物ができたわ」
「……足、棒になったけど、楽しかった」

電車に揺られ、地元の駅に着く頃には、夕日が街をオレンジ色に染め始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた

里奈使徒
キャラ文芸
 白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。  財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。  計画は完璧に成功し、絶世の美女は彼を慕うようになる。  しかし、彼女の愛情が深くなるほど、翔太の罪悪感も膨らんでいく。  これは愛なのか、それとも支配なのか?  偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?  マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。 「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...