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18話 ライオネル様が溺愛モード全開ですわ!!②
しおりを挟む「亜w瀬drftgyふじこ!!!!!!」
声の方へ振り返るとわたくしが目をつけていたドリカさんが、ギラギラとした瞳で睨みつけていた。
髪は振り乱れやつれた様子なのに、瞳だけは爛々としている。
「貴様、なぜここにいる?」
絶対零度の声音にビクリと身体が震えた。ライオネル様がこんなにも、敵意を剥き出しにするのは初めてだ。
わたくしを背中に隠して、ドリカさんと対峙する。
「モロン男爵には沙汰が決まるまで屋敷から出すなと言ったはずだが……貴様がハーミリアに呪いをかけた犯人だと調べもついている。その腫れ上がった顔は呪い返しを受けたからだろう?」
「っ!! あw瀬drftgyふじkぉp;ー!!!!」
「はっ、なにが真実の愛はここにあるだ。ふざけるな! 僕が心から愛しているのはハーミリアだけだ!!」
なんですって!! どうしてドリカさんの言っていることが理解できるのか気になるけど、それよりも、わたくしを、あ、あ、あ、愛してるですって——!!!!
ああ、神様、わたくしもう死んでもいいです。なんなら天国へでもどこへでも自力で行けそうですわ……!!
「亜w瀬drふぁせdrふぁせdr——」
その時、なにか言いかけたドリカさんの口から、前歯が丸ごとぽろんと落ちた。
それはもう見事にぽろんと綺麗に並んだ状態で、地面に転がった。
それを見たドリカさんはショックで錯乱したのか、もう声にならない奇声を上げながら突進してきた。手元にはキラリと光るショートダガーが握られている。
「僕のハーミリアに近づくなっ!!」
ライオネル様は一瞬でドリカさんを氷漬けにした。
青みがかった透明の美しい氷の柱に閉ざされ、ドリカさんはやっと動きを止めた。
パンパンに腫れ上がった顔がとても痛ましい。こんなになるまで痛んだのなら、それは地獄のようだろうと想像できた。
駆けつけた学院専属の護衛騎士たちに、ライオネル様が氷の柱ごと引き渡して事態は収束する。
「ハーミリア、大丈夫か? 怖い思いをさせてすまなかった」
「いえ、大丈夫ですわ。ドリカ様が本当に犯人ですの?」
「ああ、僕が無理やり婚約をさせられていると勘違いした挙句、ハーミリアの命を狙って呪いをかけたんだ。まったく、事実は逆だというのに、なぜあのように思い込めるのかわからない」
なにかサラッと重大な事実をこぼされたようですけど、わたくしが聞き返す前にライオネル様が言葉を続ける。
「牢獄に入れようとしたのに、モロン男爵が屋敷で監視すると言うので任せたのが間違いだった。まあ、でもこれで一族ごと追い込めるか。それにしても、どうやって屋敷から抜け出してきたのか……まともに動けない様子だったのだが」
ライオネル様に感じた黒いものが、とめどなくあふれ出している。それも素敵なのだけど、もうひとつ気になることがあるのだ。
「でもよくドリカさんのお話ししていることがわかりましたわね?」
「ああ、読唇術ができるんだ。顔が腫れていて少々わかりにくかったが」
そんなことまで努力で身につけられたというの!?
さすがライオネル様ですわ!
「それでは、ハーミリア。行こうか」
「はい!」
何事もなかったかのように、ライオネル様は足を進める。
これほど沈着冷静で心を動かさないライオネル様が、わたくしにだけ見せてくれるとろける笑顔は最高のご褒美のようだった。
そして、その日の帰りの馬車でライオネル様がとんでもないことを言い出した。
「ハーミリア、学園一のラブラブバカップルになろう」
「はい……?」
ライオネル様の斜め上すぎる発言に、さすがのわたくしも目が点になった。
「いや、今回のことを踏まえて考えたんだ。僕がハーミリアを心から愛していると周知すれば、少なくともこんな勘違いをされないだろう」
「それは、そうかもしれませんけれど。それがどうしてラブラブバカップルなのですか?」
「うん、僕の目的はみんなが呆れるほど、ハーミリアに惚れ込んでいると理解してもらい何者も僕達の間に入ってこられないようにしたいんだ」
まるで決戦前夜のような真剣な表情のライオネル様を、しっかりと心に焼き付けてから返事をする。
「もうわたくしたちの間に入ることなどできませんわ」
「そんなことはない! 僕がエスコートしているのに恥ずかしがるハーミリアに秋波を送る男子生徒のなんて多かったことか!!」
グッと握った拳はぶるぶると震えている。ライオネル様は大袈裟だ。
「わたくしにそんな視線を向けてくる男子生徒なんておりませんわ」
「……今日だけでも五人に牽制したんだ、間違いない」
「むしろ、ライオネル様の方が女性との視線を釘付けにしていましたわ」
「僕はハーミリアにしか興味がないから問題ない」
いえ、それはそれで嬉しいのですけれど。
ライオネル様からもれ出す甘い空気に引き寄せられる女生徒が多すぎるし、ラブラブバカップルというのがどういうものかちょっと気になりますわ。
「わかりましたわ。ここはラブラブバカップルを目指すしかないようですわね」
「ああ、ハーミリア、明日からさらに遠慮なく愛を注ぐよ」
え?
今日のでもまだ遠慮されてましたの?
なんて思っても、ライオネル様の激情を秘めたアイスブルーの瞳から視線を逸らせなかった。
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