19 / 62
19話 思い通りにできない王女①
しおりを挟む「まあ……男爵令嬢など役に立たないわねぇ……」
私は思わずため息とともにこぼした。
ある目的のために手駒になりそうな女を見つけたので使ってみたけど、ひと目で呪いに失敗したのだとわかった。まるで役に立たないなら、もう必要ない。
興味をなくしたので、そのまま生徒会室へと向かう。あの男爵令嬢に渡した古代の魔道具を回収するためだ。ローザとテオフィルが先に到着してそれぞれ役目をこなしていた。
テオフィルは男爵令嬢に付き添って治療院へ行き、モロン男爵に接触を図り原因不明の病だと吹き込む。ローザは魔道具の回収だ。私が王城の宝物庫から持ち出したの隠すために、別の魔道具を仕込むように伝えてあった。
「ローザ、もう準備は整ったかしら?」
「はい、マリアン様。この魔道具でしたら怪しまれません。それでは先生を呼んでまいります」
「ええ、お願いね」
ひとり生徒会室に残り窓から通学路を見下ろすと、私の想い人であるライオネル様が忌々しい婚約者をエスコートして校舎に入るところだった。
侯爵家の嫡男で眉目秀麗の上、学業は常にトップ。公明正大な人柄は多くの生徒の信頼を集めている。魔法はすでにプロの域に達していて、魔法連盟からスカウトも来ていると聞く。剣術は苦手らしいけど、それでも平均より上だ。
第三王女の私にこそふさわしい、完璧な男はライオネル様しかいない。
「伯爵家の娘が嫁げる相手ではないのよ。身のほどを弁えなさい……!」
私はハーミリア・マルグレンを排除すべく各方面から手を回していた。王族として評判を下げるわけにはいかないから、私が直接手を下すことはない。どうしても私が動かざるをえない時は、慈悲深く見えるように十分に配慮している。
学園では他の女生徒たちをけしかけて嫌がらせをさせ、わざと生徒会室に会の役員に任命してさまざまな雑用も言いつけた。でも、図太いハーミリアには陰口や嫌がらせは効果がないし、生徒会の雑用もなんなくこなしてしまう。
伯爵家にも圧力をかけて領地経営がうまくいかないようにしているけど、実家の方もなぜか潰れない。むしろ最近は領地経営も勢いを増しているくらいだ。
お父様にもライオネル様を婚約者にしたいと伝えたけど、曖昧に微笑むだけでなにもしてくれない。仕方がないので、直接的な方法を取るしかなかった。
「ライオネル様は第三王女である私の夫になるのよ——」
校舎に消えていくハーミリア・マルグレンを睨みつけた。
でも、思ったよりいい仕事をした男爵令嬢は、ハーミリアを病気療養に追い込んだ。
笑いが込み上げて仕方ないけど、嬉しさを隠して魔法学の教室へ移動中のライオネル様に近づく。
「ライオネル様、婚約者様がお休みですと心配ですわね」
「……マリアン様、ええ、そうなんです。本当は今すぐにでも駆けつけたいのですが、やはり早退してまで向かうのは婚約者としてダメかと思うと……身動きが取れなくてどうにもならないんです」
憔悴した様子にいつもの覇気を感じなくて驚いたけど、このチャンスをものにするために意識を切り替えた。
「よろしければ症状に合う薬を王城の薬草園で見繕うこともできますから、ランチをご一緒しませんこと?」
「本当ですか!? それでは、今日ハーミリアに会って確認してきますので、ランチは明日でもよろしいですか?」
ライオネル様の言葉に私は驚いた。第三王女である私が今日のランチに誘っているのに、断るなんて思ってもみなかった。こんな真面目なところも素敵だけれど、貴重なタイミングを無駄にしたくない。
「え、明日?」
「はい、今日は体調がすぐれないので学院を休むとしか聞いておりませんので、お話しできることがないのです」
「それでは今日のランチでは私がライオネル様の憂いを払ってさしあげますわ」
「声をかけていただいたのに申し訳ないですが、本当に今日は食欲がないので……」
いつもとまったく違うライオネル様だったけれど、落ち込んでいるところを慰めればあっという間に私に靡くはずだ。私が心優しい王女であることを印象付けて、距離を縮めるきっかけを作ろうとした。
「かまいませんけど、せめて野菜ジュースだけでも召し上がった方がよろしいですわ」
「野菜ジュース……っ!」
ますます落ち込んでいくライオネル様に、どうしていいのかわからずに躊躇していると「失礼します……」と言ってライオネル様は教室へ入った。結局ランチの話はうやむやになり、この後フライング気味で帰ったライオネル様に声をかけるタイミングがなかった。
23
あなたにおすすめの小説
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
優しすぎる王太子に妃は現れない
七宮叶歌
恋愛
『優しすぎる王太子』リュシアンは国民から慕われる一方、貴族からは優柔不断と見られていた。
没落しかけた伯爵家の令嬢エレナは、家を救うため王太子妃選定会に挑み、彼の心を射止めようと決意する。
だが、選定会の裏には思わぬ陰謀が渦巻いていた。翻弄されながらも、エレナは自分の想いを貫けるのか。
国が繁栄する時、青い鳥が現れる――そんな伝承のあるフェラデル国で、優しすぎる王太子と没落令嬢の行く末を、青い鳥は見守っている。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw
さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」
ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。
「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」
いえ! 慕っていません!
このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。
どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。
しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……
*設定は緩いです
婚約者を奪われ魔物討伐部隊に入れられた私ですが、騎士団長に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のクレアは、婚約者の侯爵令息サミュエルとの結婚を間近に控え、幸せいっぱいの日々を過ごしていた。そんなある日、この国の第三王女でもあるエミリアとサミュエルが恋仲である事が発覚する。
第三王女の強い希望により、サミュエルとの婚約は一方的に解消させられてしまった。さらに第三王女から、魔王討伐部隊に入る様命じられてしまう。
王女命令に逆らう事が出来ず、仕方なく魔王討伐部隊に参加する事になったクレア。そんなクレアを待ち構えていたのは、容姿は物凄く美しいが、物凄く恐ろしい騎士団長、ウィリアムだった。
毎日ウィリアムに怒鳴られまくるクレア。それでも必死に努力するクレアを見てウィリアムは…
どん底から必死に這い上がろうとする伯爵令嬢クレアと、大の女嫌いウィリアムの恋のお話です。
裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます
みゅー
恋愛
ジェイドは幼いころ会った王太子殿下であるカーレルのことを忘れたことはなかった。だが魔法学校で再会したカーレルはジェイドのことを覚えていなかった。
それでもジェイドはカーレルを想っていた。
学校の卒業式の日、貴族令嬢と親しくしているカーレルを見て元々身分差もあり儚い恋だと潔く身を引いたジェイド。
赴任先でモンスターの襲撃に会い、療養で故郷にもどった先で驚きの事実を知る。自分はこの宇宙を作るための機械『ジェイド』のシステムの一つだった。
それからは『ジェイド』に従い動くことになるが、それは国を裏切ることにもなりジェイドは最終的に殺されてしまう。
ところがその後ジェイドの記憶を持ったまま翡翠として他の世界に転生し元の世界に召喚され……
ジェイドは王太子殿下のカーレルを愛していた。
だが、自分が裏切り者と思われてもやらなければならないことができ、それを果たした。
そして、死んで翡翠として他の世界で生まれ変わったが、ものと世界に呼び戻される。
そして、戻った世界ではカーレルは聖女と呼ばれる令嬢と恋人になっていた。
だが、裏切り者のジェイドの生まれ変わりと知っていて、恋人がいるはずのカーレルはなぜか翡翠に優しくしてきて……
【完結】あなたの色に染める〜無色の私が聖女になるまで〜
白崎りか
恋愛
色なしのアリアには、従兄のギルベルトが全てだった。
「ギルベルト様は私の婚約者よ! 近づかないで。色なしのくせに!」
(お兄様の婚約者に嫌われてしまった。もう、お兄様には会えないの? 私はかわいそうな「妹」でしかないから)
ギルベルトと距離を置こうとすると、彼は「一緒に暮らそう」と言いだした。
「婚約者に愛情などない。大切なのは、アリアだけだ」
色なしは魔力がないはずなのに、アリアは魔法が使えることが分かった。
糸を染める魔法だ。染めた糸で刺繍したハンカチは、不思議な力を持っていた。
「こんな魔法は初めてだ」
薔薇の迷路で出会った王子は、アリアに手を差し伸べる。
「今のままでいいの? これは君にとって良い機会だよ」
アリアは魔法の力で聖女になる。
※小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる