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62話 あなたのそばにいる未来②
しおりを挟むそうしていつもと変わらない日常が過ぎていく。
送迎の馬車の中では、ライル様の膝の上がわたくしの指定席となり、ランチの時間は転移魔法で魔法練習場の裏まで移動した。
シルビア様は内密に王太子妃教育が始まり、毎日忙しく過ごされている。わたくしができることは仕事を引き受けたりしているけれど、昨年よりも楽なのはなぜだろう。
ああ、でもひとつだけ困っていることがある。
「ライル様っ、もうこれ以上はダメです……っ!」
「どうして? 僕はもっとリアに触れたいけど」
「だってこれから授業があるのに、わたくし力が抜けてしまいます……!」
「触れるだけのキスでも、ダメ?」
ライル様が朝と帰りの馬車の中で、たくさんのキスを降らせてくるのだ。
膝の上に腰を下ろしていて、ガッチリと抱きかかえられているから逃げたくても逃げられない。
しかも困ったことに、それも嫌ではないのだからどうしようもない。
「ダッ、ダメではないのですが——」
「なら大丈夫だね」
そしてわたくしの頬へチュッと触れるだけのキスをする。
いつもは冷酷な光を灯すアイスブルーの瞳は燃えるような激情を秘めていて、まっすぐに見つめられたら逸らすことができない。
わたくしだけが知るライル様。
わたくしだけを見つめて甘く愛を囁き、キスのひとつひとつに愛を込めてくれる。
それだけでわたくしはライル様に愛されていると実感できる。だからこそ拒否なんてできないのだ。
ずっとずっと片思いだと思っていた、あの時の悲しさや寂しさを知っているから。
「もう、ライル様っ……!」
抵抗しようとしても、キスを落とされればふにゃりと力が抜ける。
そもそも本気で抵抗する気もないから、ライル様もキスをやめる気配がない。
「愛しいリア。こんなかわいい顔を僕だけが知っていると思うと、ゾクゾクするな」
「っ! ふ、深いキスは本当にダメです!」
ライル様が猛獣のような獲物を狙う気配に変わると危険だ。
こういう時のライル様は、わたくしがフラフラになるまで貪るように喰らい尽くす。
「……リアは僕のキスが嫌なのか?」
「その聞き方はずるいですわ……」
最近のライル様はわたくしが弱いポイントも心得ていて、的確に追い詰めてくるのだ。
「リア、愛してる」
耳元で、わたくしが欲しくてたまらないというように囁く。そんな切なそうな声で愛を告げられたら抗えるわけがない。
わたくしがどれほどライル様を想っているか、それを知っているのだから確信犯に違いない。
「わたくしも……ライル様を愛してます」
わたくしの言葉に妖艶に微笑み、深い深いキスを落とされて、この日もライル様に翻弄された。
——あきらめなくてよかった。
実は父や母には、途中で何度か婚約を解消しないかと聞かれたことがあった。
格上の侯爵家相手の婚約だから、こちらからの解消などよほどでないとできないというのに、両親はわたくしを心配してくれていた。
その度にライル様の行動をよく吟味して、噂よりも自分の目で見たものを信じてきた。
実際にライル様からわたくしを嫌いだと直接聞いたことがなかったし、ライル様はご令嬢たちに人気があったから嫉妬や意地悪もあるのだろうと考えていた。
そういうものだと理解するまではたくさん泣いてきたけれど、今ではその時の経験さえわたくしの糧になっている。
出口が見えない上り坂ばかりの道だったけれど、登り切った後の世界はこんなにも輝いているのだと知った。
わたくしはこれから、どんな困難が待っていてもあきらめない。
大切な人を、ライル様を信じて、なによりも自分自身を信じて前へ進んでいく。
そしてどんな未来が待っていても、ライル様のそばにいることは変わらない。
だってわたくしは、もうあなた以外を愛せないのだから。
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natsumeさん、感想いただきありがとうございます!
リアが超前向き過ぎて斜め上の発想するところをお褒めいただき、ありがとうございます!
最高の褒め言葉です〜!!(//∇//)
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東堂さん、感想いただきありがとうございます!
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最後までご覧いただき本当にありがとうございます!
これからも応援してくださると嬉しいです(*´꒳`*)