夫のつとめ

藤谷 郁

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男はガチマッチョ!

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 希美の場合、それはずばりガチマッチョ。

 でかくて、逞しくて、筋骨隆々の戦士みたいなオトコがいい。
 近頃のモテ男ときたらどいつもこいつもスマートすぎて、むんむんと匂う雄のフェロモンが不足している。もっと、オンナをがっつりいただいてしまうような、ド迫力な身体が欲しい。

 これまで付き合ってきた男はみんなそうだった。どこの大学だとか、どんな職業だとか、顔の良し悪しすらも無問題。野性的な匂いで私を包み、熱く、激しく貪り合えたらそれでいい。

「おう、女王様。朝っぱらから男はべらせてご出勤?」

 そう。あの人のように、がっしりとした体格。熊みたいに大きくて、鍛え抜かれた肉体を持つ……

 希美はハッとして、声のしたほうへと顔を向ける。営業部オフィスの入口で腕組みしているのは、堀田ほった一路いちろ営業課長である。

「変な言い方はやめてください。別に、はべらせているわけじゃありません」
「わはは……冗談だよ、冗談」

 190cmの体躯を揺らし、豪快に笑う。スーツ越しにも想像できる筋肉の躍動が、希美の胸をも躍らせた。

(ああ、今日も素晴らしい肉体美。抱かれたい……)

 彼に対しこんな欲望を渦巻かせているとは、社内の誰も知らない。正確に言えば、彼の身体に対してのみだが、そんなのは細かいことだ。

 堀田課長は希美の大学時代の先輩である。二つ年上で学部も違ったが、ボート部の選手として活躍していた彼は有名人で、目立つ存在だった。
 厚い胸板、割れた腹筋、丸太のような腕と脚。どこもかしこも理想的な身体を鑑賞するため、ボート部の練習をたびたび見学に行ったもの。

 ――ぜひ、交際したい。そして抱かれたい!

 ムラムラと欲情を募らせたが、彼には既に付き合っている女性がいて、しかも学生結婚してしまった。為すすべもなく諦めたのだが、なんと彼は卒業後、ノルテフーズに就職する。
 希美も卒業後は同じ本社勤めになり、毎日顔を合わせることになった。

 ――彼の逞しい姿を間近で鑑賞できるのだから、よしとしよう。

 肉食系の希美だが、彼女持ちや既婚男性には手を出さない主義だ。『抱かれたい』と考えても、それは芸能人やスポーツ選手に対するのと同じ、ミーハーな呟きに過ぎない。
 そんなわけで、今現在彼は同じ大学出身の気さくな先輩であり、素晴らしい鑑賞対象という存在である。

 イケメン社員二人が、希美と堀田の親しげな様子を、羨ましそうに眺めている。彼が希美にぞんざいな口を利くのは性格で、特に意味があるわけではないのだが、それでも羨ましいのだろう。

「ところで、営業部にはなんの用事だ。社長からのことづけでも?」
「あっ、そうだったわ」

 堀田に訊かれ、肝心なことを思い出す。マッチョな身体に見惚れて忘れるところだった。

「ええと、営業二課の南村壮二さんに用があるんだけど」
「南村?」
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