夫のつとめ

藤谷 郁

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南村の告白(その1)

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 このホテルの素晴らしいところは、世界の様々な料理を味わえるレストランを揃えていること。
 ルームサービスも充実のラインナップで、希美の旺盛な食欲を24時間満たしてくれる。その辺りをオープン前からチェックして、デートに利用しようと考えていたのだ。

 今夜予約したのは最上階のグリルレストラン。オーストラリア産の食材をダイナミックに調理し、ボリュームたっぷりのメニューで提供してくれる。

「美味しそうでしょう? どんどん食べなさい」
「はい、いただきます」

 南村はすすめられるまま、運ばれてくる料理をもりもり食べていく。彼は意外にも健啖家のようだ。

「豪快ですね。こんなに分厚い肉、初めてです」
「そう? ほら、サーモンと野菜のグリルもどうぞ。いい味してるわよ」

 旬の素材を使っているので、ソースを付けなくとも自然の甘みがあり、味わい深い。希美もまずは食事に集中し、舌と胃袋を満足させた。



 あっという間にコースも終盤となり、デザートを残すのみとなる。

「あなた、私に負けず劣らずの食べっぷりね」

 ナフキンで口もとを拭う南村に、希美は感心して言う。これまで付き合ってきた男たちも旺盛な食欲だったが、体格とエネルギー消費量からすれば当然のこと。
 南村の場合、どうやら希美と同じく、太らないタイプの大食いのようだ。それに、食べ方がきれいなので、見ているほうも気持ちがいい。

「ええ、食べることは好きです。仕事帰りで、お腹も空いてましたから」

 ちょっと恥ずかしそうだが、ワインで紅潮した顔を綻ばせている。

「お酒はあまり強くない?」
「はい、どちらかといえば。仕事上の付き合いもあるし、鍛えるようにしてますが、なかなか……」

 希美は内心、にやりとする。さらに飲ませて誘惑すれば、酔った勢いで南村から襲ってくるかもしれない。それはそれで好都合な展開だ。
 しかし、まずは正攻法でいく。

「ところで、本題に入るけど」
「……はい」

 南村は静かにデザートフォークを置くと、緊張の面持ちを向けてきた。
 食事中はそれらしい素振りは見せなかったが、デートの目的を忘れてはいないようだ。

 ――私の本気、口で言っても分からないようね。だったら、実地で教えてあげるわ。

 デートに誘った文句を、この男はしっかりと記憶し、理解もしている。だからこそ、希美を見て赤くなったりそわそわしたり、落ち着かない態度をとるのだ。
 そして、半信半疑ながらも、ここまでやって来た。話を聞いて、考える余地はあるってこと。
 希美もデザートの皿を脇によけた。

「南村壮二。なぜ私があなたにプロポーズしたのか、まずそこから教える。よく聞いてね」
「はい、北城さん」

 ありのままを全部言う。嘘や誤魔化しで適当に丸め込み、後から言い訳なんてしたくない。というより、希美としてはそんな面倒くさいやり方はごめんだった。
 地味で目立たず、顔も頭も平凡な年下男を婿にすると、子供の頃から決めていた。そして、婿には『奥さん』をやってもらうつもり――

 率直に話す希美を、南村は微動だにせず見守り、聞き入っている。特に驚いたふうでもなく、かといってがっかりした様子でもない。
 希美は創業家の血筋であり、次期社長候補の筆頭だ。そんな女の婿選びとしては突拍子もない条件だから、実感できないのかもしれない。
 プロポーズされたこと自体、そうであるように。

「あなたを見つけるきっかけになったのは、『営業二課の幻影』っていうキャッチフレーズ。本当にそのとおりの人で驚いたけど、心から嬉しかったわ」

 それは希美だけをキャッチするフレーズだった。
 花の営業部において、派手なイケメンたちの影で掻き消えてしまいそうな、幻のような存在。成績もパッとせず存在感の薄い彼は、他の女性社員にはスルーされている。



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