夫のつとめ

藤谷 郁

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南村の告白(その2)

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「へえ、肉体労働ね。たとえば、どんな?」
「そうですね。建設現場の機材運搬や、巨大倉庫での入出荷作業……あと、貨物の配達とか、引越しのバイトなんかもやりました」

 南村が意味ありげな目つきで見返してくる。もしかしたら希美のガチマッチョ好きを知っていて、『これでも力持ちなんですよ』とアピールしているのかもしれない。
 希美は勘ぐったが、それは無いだろうとすぐに打ち消す。南村にそんな計算が出来るとは思えなかった。
 しかしどちらにせよ、希美にとって悪くない情報である。

「その辺り、もっと詳しく聞きたいわ。具体的には、どんな仕事をしたの?」
「はあ、ええとですね……」

 前のめりの希美に、南村は戸惑いながらも素直に答えた。肉体派の男たちが集う職場を想像し、涎が垂れそうになる。

「うんうん、なるほど。いろんな職種があるのねえ」

 営業マンだけあって、南村は話上手だ。もっと聞きたいところだが、ウエイターがデザート皿を回収したところで我に返る。
 今夜の本題はそっちではなかった。
 希美は理性を働かせ、ダダ洩れしそうな煩悩をぐっと抑えて話を戻す。

「コホン。それで、どうなったの? あなたの学生生活と、ご両親の借金は」
「あ、はい。両親は僕が大学を出る間際に新しく商売を始めて、それが成功して借金もすべて返済。大変な4年間でしたが、無事に卒業できてホッとしました」

 にこやかに笑う顔のどこにも悲壮感はない。貧乏といっても、それほど深刻ではなかったのか、それとも過去の苦労を忘れてしまうタイプなのか。
 おそらく後者だろうと思い、希美はクスッと笑う。

「あなたが庶民で、お金に苦労したことは分かった。でも、そのことは特に問題にならないわ。そもそも、私と結婚すれば経済格差なんてゼロになるのよ」
「ゼロ、ですか」
「そうよ。生計をともにするんだもの。それともあなた、男は女を養うべきだとか考えるタイプ?」

 非難めいた口ぶりに、南村は慌てて否定する。

「いえいえ、今はそんな時代ではありませんし、僕はちっともこだわりません」

 必死の様子から、どうやら嘘ではないと分かる。
 しかし、それならなぜ貧乏学生だったという過去を持ち出したのか。
 希美は少し引っ掛かったが、深く考えないことにする。やはり、この南村になにか計算があるとは思えない。

 そんなことより、次に進まなければ。
 南村に、こちらの思惑を隠すことなくすべて話したのだから、誠実な返事をいただきたい。
 つまり、プロポーズを受けてもらう。無理やりにでも受けてもらう。
 それから南村のカラダも気になっている。
 肉体労働で鍛え上げられたカラダがどんなものか、一刻も早く確かめたい。どちらかといえば、そっちの欲望が膨らんで、希美は気が急いていた。

 食欲の後は、性欲なのである。

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