夫のつとめ

藤谷 郁

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南村の告白(その2)

2

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「さあ、返事を聞かせてちょうだい。私と結婚してくれるわね?」
「はあ……」
「私のこと、嫌いではないでしょ?」
「それは、もちろん!」
「私だって、あなたを嫌いじゃないし」
「そっ、そうなんですか?」

 南村は目を輝かせた。希美のような美女に言い寄られて悪い気はしないだろうし、好意を少しでも見せられたら舞い上がる。
 地味男のサガを突き、一気に口説くのだ。

「好ましく思ってるわ。食事する間にも、あなたのいいところをたくさん見つけてる」
「あ……ありがとうございます。嬉しいです……」

 自信がないのは欠点だが、美点は欠点の裏返しでもある。こんなふうに、自己評価の低さを謙虚と受け取れば『いいところ』といえなくもない。
 ある意味、南村壮二という男は育てがいのある婿となるだろう。

「なにも心配しないで、私の夫になりなさい。一生大事にするし、不自由もさせないわよ?」

 腕を伸ばし、テーブルの上で組まれた彼の手を柔らかく包んだ。関節の太い、男くささを感じさせる理想的な手であることに気付く。
 こんな手で愛撫されたら――と、あらぬ妄想が湧き上がり、希美をますます興奮させた。

「あ、ありがとうございます。ここに来るまで、どうしても信じられなかったけれど、北城さんが本気だというのは、よく分かりました」
「そう、よかったわ。で、返事は?」

 鼻息が荒くなってしまう。あと少しで理想の夫が手に入るのだ。

(ていうか、この男を抱ける。さっさと陥落しなさい!)

 握った手に力を込めると南村はビクッとして、弱々しく言葉を発した。

「でも、僕はその……もう一つ気になることがあって」
「なに? このさいだからなんでも言っちゃって」
「……はあ」

 俯いてもじもじする彼の仕草が女のようで、希美は変な具合になる。
 うぶなOLを口説くスケベ上司といった構図だが、実際そうなのだから仕方ない。このまま一気に口説き落とし、ベッドに押し倒そうとしている。

 南村の手指は小刻みに震えている。そっと上げた顔は真っ赤で、頬も耳も、首筋までもが鮮やかに染まっていた。

「どうしたの? 早く言って」

 焦れた希美がせっつくと、思い切ったように口を開いた。

「僕は、女性経験がありません。それでも大丈夫ですか? 夫婦になるということは、その辺りかなり重要だと思うんですが」
「……は?」

 どういう意味なのか、考えを巡らせる。

 女性経験がない――というのは、要するに?

「あなたは、僕では満足できないかもしれない」
「……」
「だから、いいのかなと」
「……」
「……あの」

 意味が分からないという顔の希美に、南村はもう一度告白した。

「女の人を抱いたことがありません。童貞なんです」
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