夫のつとめ

藤谷 郁

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リードするのは私

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 未経験の男というのは確かに最初はめんどくさいかもしれないが、武子のアドバイスどおり、仕込んでやればいい。希美が満足できるような、がっつり濃厚なセックスを、この男のまっさらな身体に。

 オレ色に染めるとは、そういうことだ。

「お気に障りましたか?」

 おずおずと覗き込んでくる仔犬のような眼差しは、どこまでも澄んでいる。煩悩でいっぱいの希美は突っ走りそうになるが、ここでハッキリさせておこうという理性も働く。
 存分に、夜を楽しむために。

「南村……いいえ、これからは壮二と呼ばせてもらうわ。あなた、今の発言は私のプロポーズにイエスと返事したのと同じよ。そう考えてもいいのね?」

 壮二は希美の正面に立つと、背筋を伸ばして胸を張る。急に身体が大きくなったように見えて、希美はほんの一瞬だが気圧された。

「はい。……希美さんの本気をしっかりと受け止めました。そして、僕についても伝えるべきことは伝えて、納得もしていただいた。もう、迷うことはありません」
「うんうん、それで?」

 前のめりの希美は、つい急かしてしまう。南村が下の名前で呼んだのも気付かなかった。

「僕は、あなたのことがずっと好きでした。結婚してください!」



 ◇
 ◇
 ◇


 男がシャワーを浴びている。
 湯の音を意識しながら、希美はバスローブ姿で窓辺に立ち、眼下に広がる夜景を見渡した。

(ええと、ちょっと待って……)

 レストランで飲んだワインが今頃回ってきたのだろうか。
 頭がぼーっとして、思考がスムーズに繋がらない。

(プロポーズしたのは私よね?)

 青いライトに浮かび上がる部屋を、ゆっくりと振り返った。
 中央に据えられたダブルベッドが、一夜を過ごす男女を待ち構えている。

(ここに彼を連れてきたのは私。リードするのも私。それなのに……)

 結婚してくださいと壮二が言い、希美は『ええ』と頷いていた。自然な流れすぎて、その時は引っ掛からなかった。

(まるで、あいつがプロポーズして、私が受けた……みたいな?)

 ベッドから目を逸らすと、ガラスに映る自分と向き合う。

「あれは、つまりアレよね。壮二がテンパって、ただ『イエス』と答えるところを、あらためてプロポーズしちゃったのよ。これからエッチするもんだから、興奮して」

 それに、結婚の合意に至ったのだから結果的には万々歳だし、どちらがプロポーズしようが拘る必要はない。
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