夫のつとめ

藤谷 郁

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リードするのは私

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 ――僕は、あなたのことがずっと好きでした。結婚してください!
   
(好きだった……私を、ずっと?)
 
 彼は希美の見込んだとおり、地味で平凡、決して目立たぬ年下男。才色兼備の希美に憧れの気持ちを抱いたとて不思議ではない。
 好きと言われても、ああそうなの? で、済む話だ。

 しかし、妙な現象が起きている。
 上手いこと彼に結婚を決意させて、ベッドまで連れてきて、あとはやるだけの順調な運びであるのに……

(なんで私、緊張してんの!?)

 初めは、壮二を裸にできる高揚感によるものと思った。それから、童貞クンをモノにするという、かつて経験のない行為に対する意気込み。
 だけど、それならばもっと希美の身体は燃えて、熱くなっているはずだ。ところが、白い指先が青ざめるほど冷たくなっている。
 これは、心身ともにかなり緊張している証。
 緊張状態を引き起こした原因は、壮二のプロポーズにほかならない。

「違うわよ! 指の色なんて、部屋のライトが青いせいなんだから」
「指がどうかしましたか?」

 いつの間にかシャワーを済ませた壮二が、真後ろに立っていた。
 希美は声にならない叫びを上げ、くるりと身体を返す。

「あ、あら……いいお湯だったかしら?」

 そんなことを口にしつつ、温泉じゃあるまいしと自分にツッコミを入れる。認めたくないが、やはり緊張しているようだ。

「はは……そうですね。ポートビューって言うのかな? 夜景を楽しみながらシャワーするのって気持ちいいですね」

 朗らかに笑うこの男からは、緊張のかけらも感じられない。
 希美はなんだか腹が立ってきた。

(夜景を楽しむ? 気持ちいい? ずいぶん余裕じゃないの)

 童貞だと告白した時の、首筋まで真っ赤に染めていた男はどこに行ったのか。ここまできて開き直ったのか、それとも持ち前の鈍感がリラックスさせているのか。

 希美は息を吸い込むと、自分を落ち着かせる。そして、あらためて壮二を見回した。淡い光に立つシルエットは大きい。いつもより逞しく感じるのは、紺のスーツではなく白いバスローブを纏っているからか、それとも――

「脱いで」

 希美は唇を開き、唐突に命令した。
 壮二は何を言われたのかピンとこないようで、ぼけっと突っ立っている。

「聞こえなかった? バスローブを脱ぎなさい、壮二」
「あ、もう……ですか?」

 そこで初めて動揺らしきものが見えたが、それもすぐに収まる。覚悟を決めたように真剣な顔つきになると、彼は帯の結び目に指をかけた。



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