夫のつとめ

藤谷 郁

文字の大きさ
28 / 179
やさしくして…

3

しおりを挟む
「ええと……」
「……」
「わ、悪かったわ。つい張り切ってしまって」

 ちらりとこちらを見て、微かに頷く。
 どうやら許してくれたらしいが、希美の心中は複雑だった。

(主導権を握ったはいいけど、なんかこう、やっぱりめんどいって言うか)

 ――さようでございますか。

「えっ?」

 突如、頭の中に大きな声が響き渡る。希美は仰天し、きょろきょろと見回すけれど誰もいない。

 ――ならば、いっそのこと私が南村さんに筆おろしを……

 今度こそ幻聴である。しかし希美は、彼女がここにいるかのように、ぶんぶんと首を振った。

「いやいやいや、ここは私がちゃんとするから、武子さんは心配しないで!」
「……タケコ?」

 思わず口にした名前を、壮二が不思議そうに復唱する。希美は我に返り、取り繕うように笑ってみせた。

「なっ、なんでもない。ただの独り言よ」

 今の幻聴は、武子に童貞の件で相談し、返ってきた言葉だ。なぜここでそれが降ってくるのか謎だが、反射的に警戒心が働き、むきになってしまった。
 だが、そのおかげで"夫"に戻ることができた。

「ごめんなさい、乱暴だったわね。えっと……怖がらなくてもいいのよ?」

 どうにも調子が狂うが、そんなこと言っていられない。壮二の純潔をさっさとモノにしなければ、精力溢れる家政婦に横取りされてしまう。

(南村壮二は私のモノ。他の女に渡しはしない)

 気を取り直すと、組み敷いている童貞花嫁に集中した。
 荒っぽくベッドに倒したせいでバスローブが乱れ、襟が開きかけている。希美はぎらりと目を光らせ、彼の顎から喉、そして胸もとへと視線を下げていった。

(……あら、わりと発達してるじゃない)

 襟の陰にゆるやかな丘が垣間見え、希美は心を弾ませる。
 少なくとも貧弱ではないのが分かり、ほっとすると同時に欲情も高まってきた。うっすらと汗の滲む素肌は日に焼けて、意外なほど色っぽい。

「脱がせてもいい?」

 ストレートに要求すると、壮二は少しためらったものの、こくりと頷く。不安そうではあるが、濡れた瞳がなにかを期待しているようにも見える。

「やさしくするから、じっとしてね」

 細い指先をローブの襟に掛け、そっと開いた。乱暴に剥きたいところだが、怖がらせてはいけないと自分に言い聞かせ、必死に制御する。

 ゆっくりと、しかし大きく襟を開いた。
 現れたのは、男らしく盛り上がった大胸筋。壮二のものとは思えない、逞しい胸板だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...