夫のつとめ

藤谷 郁

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あなたは僕の、女神です

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「ねえ、壮二。私、きれい?」

 ベタな問いかけに彼はハッとして、小刻みに頷く。
 そして、ごくりと唾を呑み込むと、上ずった声で感想を漏らした。

「もちろん、すごく、きれいです。まるで、めっ、女神みたいに」
「女神?」
「はい。あなたは僕の、女神なんです」

 熱っぽい眼差しと声に、希美は一瞬ドキッとした。彼を支配しながら、どういうわけか、捕まえられた錯覚に陥る。

(まさか、気のせいよ)

 希美は慌てて、おかしな感覚を振り払う。気を取り直すと、ちょっとおどけた風に礼を言った。

「女神だなんて、身に余る光栄だわ。ありがとう」

 壮二は眩しげに目を細めると、手のひらを広げて希美の腰を支えた。彼の手指はじっとりと汗ばんでいる。

「ほんとうに、きれいだ……」

 こんな風に褒められるのはもちろん初めてではない。むしろ希美には日常で、ハイスペックなイケメンに口説かれるたび、『またか……』と苦笑するくらい聞き慣れた言葉だ。
 だが、女性を褒め慣れていないだろう壮二に言われると、何だかちょっと違う。

 大食いでも太りにくい体質の希美だが、美しさを保つ努力はきちんとしている。どんなに忙しくても、美容のための運動とエステは欠かさないし、そのための投資も惜しまない。代謝を促進させ、老廃物を追い出すリズムを整えているのだ。

 いくら容姿に恵まれていると言っても、年齢を重ねれば瑞々しさは失われてしまう。若さを保ち、いつまでも魅力的な女でありたいならば、努力、努力。
 永遠に美の上に胡坐をかいていられないのを、希美は知っていた。

 余裕のない口調や態度は、真剣さの裏返しだ。懸命な彼の賛辞に、そんな水面下の努力が報われた気がする。

「この身体は、あなたのものでもあるの。どこに触れても構わないのよ」
「……は、はい」

 壮二は爆発しそうになっている、はず。
 それなのに、本能のままに立ち向かってこないのは、やはり童貞ゆえの戸惑いか。
 それとも、女神のあまりの美しさに気圧され、腰が抜けてしまったのか。

(仕方ないわね)

 やはり、こちらが男役だ。
 希美は腰を浮かすと、ほとんどはだけている彼のバスローブ姿を眺めてから、ゆっくりと帯を解いた。

「もう、恥ずかしくないでしょ?」
「ええ」

 先に全裸になった希美に観念したのか、壮二は抵抗せず、されるに任せている。左右に襟を開かれても、身じろぎもしなかった。

「……あなたって、本当にビックリ箱ね」

 壮二を素っ裸にして、希美はため息をついた。見事な筋肉美は、かつて恋人だったマッチョどもを凌駕している。

「希美さん……僕……」

 立派な体格でをありながら、なぜこうも意気地なしなのか。歯痒いような、可笑しいような、複雑な気持ちになりながら希美は囁いた。

「私のやり方を仕込んであげる。よーく、覚えておいて」

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