夫のつとめ

藤谷 郁

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壮二のくせに!

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 壮二の態度はこっけいだけど、希美は笑わない。笑う余裕がなかった。
まっさらな童貞を奪い、オレ色に染め上げるというミッションをクリアするのだ。
 しかし彼は、意気込む希美に対して、困ったように申し出た。

「すみません。ちょっと移動したいので、放してもらえますか?」
「はっ? どうして。どこに行くの」

 この期に及んで逃げるつもりかと、やる気満々の希美は責める口調になったが、それは早とちり。
 彼はもじもじしながら理由を答えた。

「いえその、準備をしようかと……」

 壮二の冷静な態度に、希美は感心した。
 この流れの中、避妊具に思い至るとは――
 しかも、スーツの内ポケットに忍ばせておいたなんて、なかなか用意周到だ。

(うっかりしてたわ、私としたことが……でも)

 壮二はベッドの端に腰かけ、ごそごそとそれを装着した。背筋の発達した後姿を見ながら、希美は認識を新たにする。

 仕事も女性関係もぱっとしないヘタレと思いきや、判らないものだ。
 世の中には、身勝手な抱き方で女を泣かすやつもいる。イケメンであろうが、仕事ができようが、そんなのは関係ない。ベッドでは素の人格が現れ、欲望をコントロールできなくなる。

 野性的なセックスを好む希美だが、その辺りがお粗末な男は願い下げだ。強引の意味を履き違えてはいけない。
 要するに、こういったところで男の度量が明らかになると考えていた。


「お待たせしました!」

 初めてのことで多少手間取ったようだが、壮二はその数秒を取り戻すかのように、急いでベッドに上がってきた。
 日に焼けた裸が汗で光っている。がっつりマッチョではないけれど、希美の瞳には、たくさんの可能性を秘めた魅力的なカラダに映った。

「来て、壮二」

 希美はゆったりとした動作で誘いをかけた。
 壮二は目をうるうると潤ませる。女神を崇拝する無垢な青年といった風情だ。

「希美さん!」
「きゃっ」

 壮二がいきなりのしかかってきた。
 あられもない恰好にされたのは希美なのに、彼のほうが赤くなっている。

「す、すみません……あのっ」
「いいの、大丈夫よ」

(うう、じれったいわね……!)

 もういっそのこと、こちらから攻めてやりたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢する。急かして萎えさせたら、元も子もないのだ。

「夢みたいです。あなたと、こんなふうに」

 壮二は感無量の様子でいたが、やがて意を決したのか、思いきり抱きしめてきた。


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