38 / 179
お見通し
1
しおりを挟む
「え……なんで、武子さんがいるの?」
北城家の玄関前に、家政婦の姿があった。
杉山の助けを借りて車を降り、腰の痛みを堪えながらアプローチを進むと、彼女は駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
眠気のせいで、幻を見ているのだろうか。
瞼をごしごしと擦るが、逞しい腕で希美を支え、にっこりと微笑むのは確かに山際武子である。いつものようにエプロンを着けて、仕事中の恰好をしている。
「どうしたの? 今日はお休みで、自宅にいたはずじゃ……」
「ふふ、なんとなく予感がいたしました。お嬢様から電話をいただいた後、こちらに来て待機していたのです。そうしたら案の定、杉山さんが現れて、ホテルまでお迎えに上がると言うではありませんか」
「な、なるほどね」
童貞の件で武子に電話した。そのことで、希美が予定変更して帰宅するのを察したらしい。どうしてそこまで分かるのか謎だが、経験豊富な彼女なら予測可能なのかもしれない。
「杉山さん、こんな時間に呼びつけて本当にごめんなさい。どうもありがとう」
武子につかまりながら希美が振り向くと、杉山は白髪交じりの頭を下げて、運転席に乗り込んだ。車がガレージに移動するのを見送り、希美はホッと息をつく。
「お疲れ様でございます」
「ほんと、マジで疲れたわ」
希美が片手で腰を押さえると、武子はなぜか嬉しそうな顔になり、うんうんと頷く。
「それはそれは、大変結構なことでございます」
「……はい?」
壮二のせいで身体がこんなふうになったのを、武子は勘付いてるはず。だから予定変更を余儀なくされて帰ってきたのに、どうして『結構』なのかと、希美は疑問の目を向ける。
武子はもう一度頷くと、
「私は何もかも承知しておりますよ、お嬢様。南村さんとの初夜、とても満足されたご様子で羨ま……コホン、喜ばしいことではありませんか」
「な……」
どこが? こんな状態になっているのに、一体どこが喜ばしいのか。
武子の発言は意味不明だ。
「いっ、言いたくないけどね、武子さん。あの……壮二とのことは、あなたにアドバイスされたとおりにいかなかったって言うか……」
そう、童貞についての彼女のアドバイスはこうだった。一から十まで、自分のいいように育てることができる。だから、理想の身体に仕込んでやればよい。
――特に南村さんは初心なタイプのようですから、お嬢様の言いなりになんでもすることでしょう。
確かに壮二は希美の言いなりに、一生懸命こちらの要望に応えようとした。それは間違いない。
しかし、あそこまでド真っ直ぐな男だとは想定できず、この始末である。
北城家の玄関前に、家政婦の姿があった。
杉山の助けを借りて車を降り、腰の痛みを堪えながらアプローチを進むと、彼女は駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
眠気のせいで、幻を見ているのだろうか。
瞼をごしごしと擦るが、逞しい腕で希美を支え、にっこりと微笑むのは確かに山際武子である。いつものようにエプロンを着けて、仕事中の恰好をしている。
「どうしたの? 今日はお休みで、自宅にいたはずじゃ……」
「ふふ、なんとなく予感がいたしました。お嬢様から電話をいただいた後、こちらに来て待機していたのです。そうしたら案の定、杉山さんが現れて、ホテルまでお迎えに上がると言うではありませんか」
「な、なるほどね」
童貞の件で武子に電話した。そのことで、希美が予定変更して帰宅するのを察したらしい。どうしてそこまで分かるのか謎だが、経験豊富な彼女なら予測可能なのかもしれない。
「杉山さん、こんな時間に呼びつけて本当にごめんなさい。どうもありがとう」
武子につかまりながら希美が振り向くと、杉山は白髪交じりの頭を下げて、運転席に乗り込んだ。車がガレージに移動するのを見送り、希美はホッと息をつく。
「お疲れ様でございます」
「ほんと、マジで疲れたわ」
希美が片手で腰を押さえると、武子はなぜか嬉しそうな顔になり、うんうんと頷く。
「それはそれは、大変結構なことでございます」
「……はい?」
壮二のせいで身体がこんなふうになったのを、武子は勘付いてるはず。だから予定変更を余儀なくされて帰ってきたのに、どうして『結構』なのかと、希美は疑問の目を向ける。
武子はもう一度頷くと、
「私は何もかも承知しておりますよ、お嬢様。南村さんとの初夜、とても満足されたご様子で羨ま……コホン、喜ばしいことではありませんか」
「な……」
どこが? こんな状態になっているのに、一体どこが喜ばしいのか。
武子の発言は意味不明だ。
「いっ、言いたくないけどね、武子さん。あの……壮二とのことは、あなたにアドバイスされたとおりにいかなかったって言うか……」
そう、童貞についての彼女のアドバイスはこうだった。一から十まで、自分のいいように育てることができる。だから、理想の身体に仕込んでやればよい。
――特に南村さんは初心なタイプのようですから、お嬢様の言いなりになんでもすることでしょう。
確かに壮二は希美の言いなりに、一生懸命こちらの要望に応えようとした。それは間違いない。
しかし、あそこまでド真っ直ぐな男だとは想定できず、この始末である。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる