夫のつとめ

藤谷 郁

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お見通し

1

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「え……なんで、武子さんがいるの?」

 北城家の玄関前に、家政婦の姿があった。
 杉山の助けを借りて車を降り、腰の痛みを堪えながらアプローチを進むと、彼女は駆け寄ってきた。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 眠気のせいで、幻を見ているのだろうか。
 瞼をごしごしと擦るが、逞しい腕で希美を支え、にっこりと微笑むのは確かに山際武子である。いつものようにエプロンを着けて、仕事中の恰好をしている。

「どうしたの? 今日はお休みで、自宅にいたはずじゃ……」
「ふふ、なんとなく予感がいたしました。お嬢様から電話をいただいた後、こちらに来て待機していたのです。そうしたら案の定、杉山さんが現れて、ホテルまでお迎えに上がると言うではありませんか」
「な、なるほどね」

 童貞の件で武子に電話した。そのことで、希美が予定変更して帰宅するのを察したらしい。どうしてそこまで分かるのか謎だが、経験豊富な彼女なら予測可能なのかもしれない。

「杉山さん、こんな時間に呼びつけて本当にごめんなさい。どうもありがとう」

 武子につかまりながら希美が振り向くと、杉山は白髪交じりの頭を下げて、運転席に乗り込んだ。車がガレージに移動するのを見送り、希美はホッと息をつく。

「お疲れ様でございます」
「ほんと、マジで疲れたわ」

 希美が片手で腰を押さえると、武子はなぜか嬉しそうな顔になり、うんうんと頷く。

「それはそれは、大変結構なことでございます」
「……はい?」

 壮二のせいで身体がこんなふうになったのを、武子は勘付いてるはず。だから予定変更を余儀なくされて帰ってきたのに、どうして『結構』なのかと、希美は疑問の目を向ける。
 武子はもう一度頷くと、

「私は何もかも承知しておりますよ、お嬢様。南村さんとの初夜、とても満足されたご様子で羨ま……コホン、喜ばしいことではありませんか」
「な……」

 どこが? こんな状態になっているのに、一体どこが喜ばしいのか。
 武子の発言は意味不明だ。

「いっ、言いたくないけどね、武子さん。あの……壮二とのことは、あなたにアドバイスされたとおりにいかなかったって言うか……」

 そう、童貞についての彼女のアドバイスはこうだった。一から十まで、自分のいいように育てることができる。だから、理想の身体に仕込んでやればよい。

 ――特に南村さんは初心なタイプのようですから、お嬢様の言いなりになんでもすることでしょう。

 確かに壮二は希美の言いなりに、一生懸命こちらの要望に応えようとした。それは間違いない。
 しかし、あそこまでド真っ直ぐな男だとは想定できず、この始末である。
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