夫のつとめ

藤谷 郁

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嘘から出たまこと

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 希美はスマートフォンを持ち直すと、秘書の声になって応えた。

「はい、聞いております。社長、今は静岡の真崎カントリークラブにいらっしゃるんですよね」
『そうだ。ゴルフ場に併設されたホテルにいる。海山うみやま商事の社長親子と、朝飯を食べたばかりだよ』
「社長親子……社長と専務ですか?」
『そうだ、息子が専務取締役で、お前と同じ会社後継者だ』

 その後継者は希美と同じ年齢だと聞いている。いわゆる御曹司で、見栄えのよさもあって業界ではちょっとした有名人とのこと。

 どうでもいい情報を横に置くと、希美は頭の中で、社長のスケジュールをおさらいした。
 昨日はゴルフと、夕方からはホテルのレセプションルームで、資本提携に関する話し合いが持たれている。といっても正式な会議ではなく、接待の意味合いが強い。向こうが大きな会社であるから、ノルテフーズがもてなす立場である。

 つまり、ゴルフをメインとする内々の親睦旅行であり、男性秘書と社員数名を伴っていた。
 そして今日もゴルフに昼食会。秘書以外の社員は帰したはずなので、経営者同士で今後をざっくり打ち合わせた後、解散の予定だ。
 
『それでな、自社製品についていろいろ突っ込まれて困ってるんだ。なあ、こっちに来て質問に答えてくれんか』

 希美は絶句した。仮にも父はノルテフーズの代表取締役である。
 なんと情けないことを言ってくるのか。

臼井うすい秘書が同行してるでしょう。彼なら答えられるはずです」
『いや、ダメだ。あいつはゴルフは精通してるが、商品に関してはいまいち。ていうか、あっちが訊いてくるのは昭和時代からのラインナップだよ。それにだな……』

 急に語尾がすぼまる。希美はいやな予感がした。

『それに、その辺りは次期社長がすべて把握しておりますって言っちゃったし』
「嘘でしょ?」

 驚きのあまり、秘書にあるまじき言葉遣いになる。

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