夫のつとめ

藤谷 郁

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ドライブ日和

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 午前10時10分。
 壮二は約束の時間ピッタリに北城家前に車をつけた。玄関前で待機していた希美は、武子とともに門扉へのアプローチを進む。

「おはようございます。今日もよろしくお願いします!」

 希美を見つけた壮二は車から降りて、ぺこりとお辞儀をする。
 予想どおり、いつものスーツを着て、中古の4ドアセダンに乗ってきた。ホワイトメタリックの車体はワックスをかけたばかりなのか、つやつやと輝いている。

「あの方が南村壮二さん。なるほど、見るからに地味な青年でございますね」
「そうでしょう」

 希美は門扉の前で立ち止まり、後ろを振り向く。屋敷を見上げると、二階の窓辺に母親が立ち、オペラグラスを覗いている。

(ったく。そんなに気になるなら出て来ればいいのに)

 母、麗子れいこは希美の決めた結婚相手に不服はないが、全面的に信用するわけではない。北城家の財産を狙う不埒な輩ではないかと、警戒しているのだろう。

(お父様といい……結局、私を信用してないのよね)

 結婚への道のりは、希美が考えるより険しいものになりそうだ。

「おはよう、壮二。急に呼び出して悪かったわね」
「いえっ、とんでもありません」

 希美と向き合うと彼は笑顔になり、あからさまに喜びを表す。頬を赤く染め、照れまくっている。
 時間が無かったとはいえ、希美は社長秘書として、そして女としても最大限の努力をした。きちんと化粧をし、髪もきれいに結い上げてある。身に着けているのは、クリーニングから返ってきたばかりのグレイのパンツスーツ。

 秘書スタイルの希美は派手さはないが、上品な色香が漂う。年下の若い男には、えもいわれぬ魅力に映るだろう。ましてや、昨夜肌を合わせた女性である。

「それじゃ、行ってくるわね。あ、壮二、彼女は武子さんといって、うちの家政婦さん。私のよき理解者であり、家族も同然の人よ」

 車に乗り込む前に、武子を紹介した。

「初めまして、南村さん。北城家にお勤めして28年、山際武子と申します」
「えっ? あ、どうも……初めまして」

 壮二は今気が付いたように武子を見、ぎこちなく挨拶する。筋骨たくましいアスリート家政婦に、戸惑っているのだろう。

「武子さん、じろじろ見ないであげて。怖がるから」

 希美は真面目に言うが、武子はなぜかにんまりとした。意味ありげな笑いに、壮二が目を瞬かせる。

「それは、失礼いたしました。ふふ……そうですか、あなたが例の……ふふふふ」
「ちょ……武子さん!」 

 例の童貞――

 などと言い出さないうちに、壮二に車に乗るよう指示する。童貞とのセックスについて武子に相談したなど、絶対に知られたくない。
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