夫のつとめ

藤谷 郁

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イケメンハイスペック親子

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「どうも、お待たせしました。息子がどうしても着替えると言ってきかないので。仕度に手間取ってしまいましたよ」
「いやあ、汗臭いゴルフウェアのままでは、レディに失礼かと思いまして」

 食事会場に現われたのは、海山商事社長親子。父親は利希に負けず劣らずダンディな風貌。息子は絵に描いたようなイケメンハイスペック。
 どちらも一流ブランドのスーツに身を包み、時計、ネクタイ、靴に至るまで高級品を揃えている。
 金持ちオーラを漲らせる彼らは、希美にとって何とも嫌な組み合わせだった。

「おお、そうでしたか。娘のためにお気遣いいただき、ありがとうございます」

 大仰に腕を広げて利希が出迎える。希美も、壮二とともに立ち上がった。

「初めまして。ノルテフーズ本社秘書課の北城希美と申します。社長付き第一秘書を務めております」

 希美が名刺を差し出し挨拶すると、海山商事の社長、細野ほその友光ともみつは顔をほころばせた。

「おお、噂に違わずお美しいお嬢さんだ。なあ、幸一こういち
「ええ、お父さん」

 幸一と呼ばれた息子は前に進み出ると、希美の名刺を恭しく受け取った。彼も父親と同じく細面で、女のようにきれいな目鼻立ちをしている。すらりと背が高いが、希美には痩せっぽちに映った。

「大輪の薔薇のように華やかで、それでいて清楚な佇まいが百合の花を連想させる。ずっとお会いしたいと願ってましたが、こんなに早く実現するとは。恋の神様が引き合わせてくれたのかな」
「は……はあ」

 希美はぎこちなく笑みを返した。
 どうやら冗談ではなさそうだ。彼は細長い指で前髪をかき上げ、格好を付けている。

(なんなの、この男。こっちが恥ずかしくなるんだけど)

 希美はイラッとしながら、男のプロフィールを脳内で再確認する。

 細野幸一。年齢29歳。海山商事の社長子息で、専務取締役。若き御曹司はメディアに度々登場し、女性の人気を集めていると言うが……

(ダメだわ。一般的な女性の価値観が、まったく理解できない)

「ゴホン。ほれ、お前もご挨拶しろ」

 利希が咳ばらいをし、壮二を促した。
 希美は頭を切り替え、後ろに控える壮二に場所を譲る。見ると、彼は緊張のためか顔を強張らせていた。

(あっ、そう言えば名刺が無い)

 いざとなって気が付いた。彼は営業部員であり、秘書としての名刺を持たない。
 しかし今さら用意することもできず希美は困惑した。うまい口実を考えておくべきだったのに。
 利希はといえば知らんぷり。きっと分かっていて自己紹介させるのだ。

「君は、初めて見る顔だね」

 友光が珍しそうに眺めてくる。
 壮二は緊張しながらも、営業マンらしくきっちりとお辞儀をした。
 一体、どうやってこの場を切り抜けるのか。
 希美はハラハラしながら成り行きを見守った。





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