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実はデキる男
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「初めまして。ノルテフーズ本社営業部第二営業課の南村壮二と申します。本日は社長の北城より、秘書見習いとして同席するよう指名されました。どうぞよろしくお願いいたします」
えっ? と、希美は声を上げそうになる。
まさか、ありのまま自己紹介するとは思わなかった。壮二は迷うことなくいつもの名刺を出して、普通に挨拶している。
「なるほど、名刺も営業部となっているね。秘書見習いとは面白い。北城さんには何かお考えがあってのことでしょうな」
「は? あっ、ええ……それは」
友光に問われ、利希のほうがしどろもどろになる。先ほど壮二は、社長に指名されてと言った。
「あのう、つまりですな……営業部員は製品の知識が豊富で、何より市場の動きを肌で感じておりますので、細野さんのご質問に、より正確にお答えできるのではないかと考えまして」
「秘書見習いと言うのは?」
「彼はいずれ営業部から秘書課に異動する予定ですので、はい」
細野親子はなるほどという顔になる。急ごしらえの言い訳にしては筋が通っていた。
「社長直々のご指名ですか。お若いのに、さぞや優秀な方なんでしょうねえ」
「敏腕営業マンってところかな?」
感心する彼らに、利希も希美も表面的な笑みを返すのみ。実は営業部の幻影と呼ばれるほど影が薄く、ぱっとしない存在だなんて言えやしない。
当の本人は先方のお世辞を真に受け、「いえいえ、それほどでもありません」などと謙遜し、赤くなっている。
「とにかく食事にしましょう。お二人とも、どうぞお座りください」
さらなる追及を避けるためか、利希がいそいそとテーブルに案内した。レストランの従業員が飲み物の注文を受け、一旦下がっていく。
(まったく、ハラハラさせるんだから)
しかし、この展開は希美にとって好都合だ。壮二をこの場に連れて来たのは社長。と言うことは、もし壮二が失敗しても、それは社長の責任である。
利希の複雑そうな表情を見やり、希美はほくそえんだ。壮二は馬鹿正直に自己紹介したのだろうが、これもまた天然男のなせる業。
第二関門を、またしても自然体で乗り切ってしまった。
六人掛けの大きなテーブルに、社長と社長、希美と幸一が向き合って座る。
壮二は希美の隣に控えめに着席した。席はあっても、社長親子の会食に割り込むようで、居心地が悪いのかもしれない。
「大丈夫よ、すぐに終わるわ」
小声で囁くと、壮二はにこりと笑った。鈍いのか、それとも開き直ったのか。案外平気そうな彼を見て、希美はとりあえず安心した。
飲み物に続き、料理が運ばれてくる。社長がフォークを取るのを待ち、希美も食事を始めた。ふと視線に気付いて顔を上げると、幸一が希美のことをじっと見つめている。
「あなたは実に美しい。次回はぜひ、二人きりで食事がしたいですね」
「ぐっ……」
にんじんのラぺを飲み込もうとして、喉に詰まらせた。
いきなり何を言い出すのか、この男は。父親同伴の場で口説き始めるなんて信じられない。
「おいおい、幸一。時と場合をわきまえなさい。北城さんにも失礼だろう」
友光がたしなめるが、幸一は構わず希美を見つめ続ける。一体、どんな神経をしているのだ。
「いやいや細野さん。今日は親睦を深めるための食事会ですからな。はっはは……」
利希が取りなすけれど、笑い声は乾いている。さすがの彼も、目の前で娘が口説かれるのは面白くないらしい。
えっ? と、希美は声を上げそうになる。
まさか、ありのまま自己紹介するとは思わなかった。壮二は迷うことなくいつもの名刺を出して、普通に挨拶している。
「なるほど、名刺も営業部となっているね。秘書見習いとは面白い。北城さんには何かお考えがあってのことでしょうな」
「は? あっ、ええ……それは」
友光に問われ、利希のほうがしどろもどろになる。先ほど壮二は、社長に指名されてと言った。
「あのう、つまりですな……営業部員は製品の知識が豊富で、何より市場の動きを肌で感じておりますので、細野さんのご質問に、より正確にお答えできるのではないかと考えまして」
「秘書見習いと言うのは?」
「彼はいずれ営業部から秘書課に異動する予定ですので、はい」
細野親子はなるほどという顔になる。急ごしらえの言い訳にしては筋が通っていた。
「社長直々のご指名ですか。お若いのに、さぞや優秀な方なんでしょうねえ」
「敏腕営業マンってところかな?」
感心する彼らに、利希も希美も表面的な笑みを返すのみ。実は営業部の幻影と呼ばれるほど影が薄く、ぱっとしない存在だなんて言えやしない。
当の本人は先方のお世辞を真に受け、「いえいえ、それほどでもありません」などと謙遜し、赤くなっている。
「とにかく食事にしましょう。お二人とも、どうぞお座りください」
さらなる追及を避けるためか、利希がいそいそとテーブルに案内した。レストランの従業員が飲み物の注文を受け、一旦下がっていく。
(まったく、ハラハラさせるんだから)
しかし、この展開は希美にとって好都合だ。壮二をこの場に連れて来たのは社長。と言うことは、もし壮二が失敗しても、それは社長の責任である。
利希の複雑そうな表情を見やり、希美はほくそえんだ。壮二は馬鹿正直に自己紹介したのだろうが、これもまた天然男のなせる業。
第二関門を、またしても自然体で乗り切ってしまった。
六人掛けの大きなテーブルに、社長と社長、希美と幸一が向き合って座る。
壮二は希美の隣に控えめに着席した。席はあっても、社長親子の会食に割り込むようで、居心地が悪いのかもしれない。
「大丈夫よ、すぐに終わるわ」
小声で囁くと、壮二はにこりと笑った。鈍いのか、それとも開き直ったのか。案外平気そうな彼を見て、希美はとりあえず安心した。
飲み物に続き、料理が運ばれてくる。社長がフォークを取るのを待ち、希美も食事を始めた。ふと視線に気付いて顔を上げると、幸一が希美のことをじっと見つめている。
「あなたは実に美しい。次回はぜひ、二人きりで食事がしたいですね」
「ぐっ……」
にんじんのラぺを飲み込もうとして、喉に詰まらせた。
いきなり何を言い出すのか、この男は。父親同伴の場で口説き始めるなんて信じられない。
「おいおい、幸一。時と場合をわきまえなさい。北城さんにも失礼だろう」
友光がたしなめるが、幸一は構わず希美を見つめ続ける。一体、どんな神経をしているのだ。
「いやいや細野さん。今日は親睦を深めるための食事会ですからな。はっはは……」
利希が取りなすけれど、笑い声は乾いている。さすがの彼も、目の前で娘が口説かれるのは面白くないらしい。
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