夫のつとめ

藤谷 郁

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イニシアティブ

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 湖畔に佇むホテルの一室。
 希美はベッドに横たわり、逞しくも美しい肉体を見上げる。本能のままに欲情する姿は、しなやかな野性の獣。スーツを脱いだ壮二は、ワイルドなオスだった。

 童貞を卒業した男は多少の自信が付いたのか、それとも彼ならではの勢いなのか、遠慮なく抱きしめてくる。

「ああ、壮二……」

 昨夜交わったばかりだというのに、こんなにも欲しい。この強烈な刺激はなんなのだろう。
 グイグイと押し入るのは純粋な欲望。強く、熱く、女を求められて、希美の胸はかつてないほどのときめきを覚える。
 どんなガチマッチョにも、これほどのエネルギーを感じたことはない。

(ほんと壮二って、脱いだら凄いやつだった……のね)

 これまで付き合ってきた男たちと違う。希美を全力で欲しがり、愛情もストレートに表現する。年下というだけではなく、これは彼の性格なのだ。
 格好をつけず、飾らず、ありのままぶつかってくる。

身体の奥深くに熱が広がっていく。希美は抱きしめられ、恍惚とした表情を天井に向けた。

(いっちゃった……また、壮二と一緒に)

 男と同時に果てるなんて、これまでにない経験だ。どうして壮二とはいけてしまうのか。相性……という気がする。


 壮二の息が整い、快楽の波が去るまで肌を密着させた。
 やがて彼が上体を起こし、きらきらと輝く瞳で希美を見つめる。満足と、照れと、気だるさがない交ぜになった眼差しは、意外なほどの魅力をたたえている。

「もっと粘りたかったけど、いっちゃいました」
「なに言ってるの。良かったわよ」
「でも、希美さんは何度も『ダメ』って……」

 壮二の済まなそうな顔を見て、ん? と思う。どうやら彼は、まだ勘違いをしている。

「あのね、壮二。昨夜教えたことは、ちょっと違うって言うか……」
「違う?」

 希美は体勢を変え、壮二をピローに寝かせた。ぴたりと寄り添い、彼に腕枕をさせる。

「『イヤ』とか『ダメ』の意味は、『もっと』……なんて言ったけど、あれはその……時々変わるのよ」
「そうなんですか?」
「感じすぎたり、快感に耐えられなくなったときも、言ったりするわけ」
「はあ……なるほど??」

 壮二はしかし、きょとんとする。経験浅い彼にとって、言葉の裏を読むのはハイレベルな技だ。

「あっ、それなら昨夜は勘違いしたまま、あなたを抱いたってことですよね」

 そのとおり。激しすぎる攻撃を受けて、希美は肉体的な敗北を喫した。壮二は焦った様子になるが、希美は人差し指でそっと彼の唇を押さえる。

「そのうち、分かってくるわ。何度も肌を重ねれば……」
「希美さん」

 目を合わせながら、キスをする。壮二の舌使いは昨夜より上達していた。希美は蕩けてしまいそうになり、背中に回る彼の手をやんわりと退ける。

「す、すみません。つい……」

 壮二は赤くなり、覆い被さろうとした身体をもとに戻す。がつがつした自分を恥じているのだろうが、希美はまったく気に留めない。
 むしろ大歓迎なのだが、明日のことを考えると、体力の限界まで愛し合うのはまずい。
 窓の外は暗く、間接照明の淡い光が部屋を照らしている。

「残念だけど、そろそろ帰らなきゃ」
「あ、明日は月曜日ですもんね」
 
 そう、仕事がある。
 壮二との交わりは良い意味で消耗が激しく、だからこそコントロールが必要だ。日常生活に支障をきたさないよう。

「分かりました。でも、少しだけこうさせてください」
「うん?」
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