夫のつとめ

藤谷 郁

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イニシアティブ

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 壮二は希美を抱き寄せると、大事そうに包み込んだ。

「壮二……」

(考えてみれば、壮二だって疲れてるはず。昨日も今日も、振り回しちゃったから)

 無理矢理デートに誘い、童貞を奪い、父親の圧迫面接を受けさせた。一方的で強引なやり方だったけれど、彼は最大限の努力をしてくれた。
 希美の夫となるために。

「ありがとう、壮二」
「えっ」

 顔を上げた希美に、くるっとした目を向ける。地味で目立たない男だけれど、彼の本質は陽性だ。瞳の明るさがそれを表している。

「あなたは私のために一生懸命に頑張ってくれたわ」
「あ、ああ。いえ、僕はただ……」

 壮二は言葉を途切れさせ、その代り希美の身体を強く抱いた。彼の温かい胸は、とても安心できる。

「大好きな女性ひとのために、せいいっぱい頑張る。ただ、それだけですよ」

 熱っぽい声は、真剣な想いを伝えている。
 彼はいつから私のことを好きだったのかしら……と、希美は考えるけれど、急に睡魔が襲ってきた。
 壮二は気付いたのか、希美の身体をそっと解放し、もとのように腕枕した。

「少し休んでから帰りましょうか」
「そうね。ふふ……朝からバタバタだったけど、壮二とデートできて良かったわ」
「ええ、すごく楽しかったです」

 ゴルフ場を出た後、二人でドライブした。
 高原の爽やかな景色を堪能し、富士山がきれいに見えるレストランで食事する。数時間のデートだけれど、希美は日頃の忙しさを忘れ、心身ともにリフレッシュすることができた。

 そして日が暮れかけた頃、このホテルに辿り着いた。
 いつの間にか壮二が予約を入れて、部屋を取ってあったのだ。彼は赤くなりながらも、『実は、今朝出かける前に、良さそうなホテルを調べておいたんです』と打ち明けた。
 そんな余裕があったとは驚きだが、予想もつかないところが壮二らしくて、好ましい。


「うん、楽しかった。ドライブが楽しすぎて、ホテルで過ごす時間が少なくなっちゃったけどね」
「あはは……確かに。でも、いいんです……」

 耳もとに、彼が囁きかけた。

「これから僕は、数えきれないほどあなたを抱くことができる。そうですよね?」

 一瞬、知らない男の声に聞こえて希美はドキッとする。だけど、腕の中から彼を覗くと、明るく優しい瞳が見つめていた。

「そっ、そうなるように頑張りなさい。見習い秘書さん」
「はいっ」

 冗談めかす希美だが、なぜかドキドキする。
 まるで、主導権を奪われたかのようなこの感覚。
 壮二のくせに――と思いながらも、鼓動の速さはどうしても収まらなかった。
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