夫のつとめ

藤谷 郁

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まさかの嫉妬

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 翌朝、希美は早起きした。
 バスルームでタオルを交換する武子を捕まえると、昨日のことをかいつまんで話した。昨夜は帰宅が遅くなり、報告できなかったのだ。

「それはそれは、大変良い展開でございましたねえ」

 武子は驚き、感心の声を上げた。

「旦那様にそこまで言わせるとは……大したものです」

 もちろん、壮二に対しての評価だ。実の親より信頼する彼女の言葉を、希美は喜んだ。

「ハラハラしたけどね。壮二って、妙な才能があるみたい」
「ほほほ……人は見かけによらぬもの。面白うございます」

 廊下に出て、武子と一緒にダイニングへと歩いた。窓を照らす朝陽が、希美を清々しい気分にさせる。

「ところでお嬢様。奥様がいろいろとお調べになっていますよ」
「ああ、早速?」

 母麗子は、壮二が北城家の婿に相応しいかどうか、身辺調査すると言っていた。結婚に反対する気はないだろうが、念のためである。

「大丈夫。あいつは平凡な家庭で育った、ごく普通の男だもの」
「ええ、私にもそう見えました。奥様も南村さんのことを、『本当に地味な方ねえ』なんて仰いましたが、好感を持たれたようですよ。旦那様と正反対のタイプなので、安心されたのでしょう」
「あはは、確かに」

 昨日、麗子はオペラグラスを覗き、壮二を観察した。浮気の心配などこれっぽちもなさそうな様子に安心したようだ。

「そういえば武子さん。さっきも話したけど、お母様に恋人がいたなんて知ってた?」

 海山商事の社長、細野友光のことだ。

「いいえ。細野というお名前にも、まったく覚えがございません」
「でしょう?」

 しかし、友光の話がまるっきり嘘だとは思えない。それとなく探ってみようと希美は考えた。 


 そして、家族三人揃った朝食の席でのこと。
 武子が食後のお茶を配るタイミングで、その話が切り出された。ただし希美ではなく、父利希の口からである。

「細野友光という男を知ってるだろう」

 経済紙を広げ、正面に座る麗子を見もせず、世間話でもするかのような自然体だった。
 父のいないところで訊くつもりでいた希美は、本人に先を越されてびっくりする。

「えっ、なんですか? 細野……さん?」
「ああ。今度ウチと資本提携を結ぶ商事会社の社長だよ」
「はあ……その方が、どうかされたのですか?」

 利希は経済紙を下げ、正面を見た。湯呑みを手に、麗子が小首を傾げている。

 希美はお茶を飲みつつ、母親の表情をジッと観察する。惚けたのではなく、本当に分からないようだ。
 利希はじれったそうに言葉を続けた。

「どうって……大学のサークルで一緒だったそうじゃないか。付き合っていたとか? そんなようなことをチラッと聞いてな」
「はい?」

 なにを言っているのだ、この人は。といったふうに、麗子は眉根を寄せる。
 希美は武子にお茶を注いでくれるよう頼み、両親のやり取りに関心のない振りをした。朝っぱらからけんかを始めるのではないかと、嫌な予感がしたのだ。

 だが――

「大学のサークル……あっ!」

 麗子は小さく叫ぶと、笑顔になった。どうやら思い出したようである。

「誰のことかと思えば。ああ、芸術サークルで一緒だった友光君のことね。懐かしい名前だこと」
「友光……君?」

 利希は不愉快そうに顔をしかめた。妻の反応が癇に障ったようだ。

「そういえば、あの方は商事会社の御曹司だったわ。そう、会社を継いで社長さんになったのねえ。ほほほ……」

 なにが可笑しいのか、麗子が楽しそうに笑う。いつも澄ました彼女が、こんなにニコニコするのは珍しい。
 反対に、利希はムッとしている。

(お父様……?)
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