69 / 179
まさかの嫉妬
1
しおりを挟む
翌朝、希美は早起きした。
バスルームでタオルを交換する武子を捕まえると、昨日のことをかいつまんで話した。昨夜は帰宅が遅くなり、報告できなかったのだ。
「それはそれは、大変良い展開でございましたねえ」
武子は驚き、感心の声を上げた。
「旦那様にそこまで言わせるとは……大したものです」
もちろん、壮二に対しての評価だ。実の親より信頼する彼女の言葉を、希美は喜んだ。
「ハラハラしたけどね。壮二って、妙な才能があるみたい」
「ほほほ……人は見かけによらぬもの。面白うございます」
廊下に出て、武子と一緒にダイニングへと歩いた。窓を照らす朝陽が、希美を清々しい気分にさせる。
「ところでお嬢様。奥様がいろいろとお調べになっていますよ」
「ああ、早速?」
母麗子は、壮二が北城家の婿に相応しいかどうか、身辺調査すると言っていた。結婚に反対する気はないだろうが、念のためである。
「大丈夫。あいつは平凡な家庭で育った、ごく普通の男だもの」
「ええ、私にもそう見えました。奥様も南村さんのことを、『本当に地味な方ねえ』なんて仰いましたが、好感を持たれたようですよ。旦那様と正反対のタイプなので、安心されたのでしょう」
「あはは、確かに」
昨日、麗子はオペラグラスを覗き、壮二を観察した。浮気の心配などこれっぽちもなさそうな様子に安心したようだ。
「そういえば武子さん。さっきも話したけど、お母様に恋人がいたなんて知ってた?」
海山商事の社長、細野友光のことだ。
「いいえ。細野というお名前にも、まったく覚えがございません」
「でしょう?」
しかし、友光の話がまるっきり嘘だとは思えない。それとなく探ってみようと希美は考えた。
そして、家族三人揃った朝食の席でのこと。
武子が食後のお茶を配るタイミングで、その話が切り出された。ただし希美ではなく、父利希の口からである。
「細野友光という男を知ってるだろう」
経済紙を広げ、正面に座る麗子を見もせず、世間話でもするかのような自然体だった。
父のいないところで訊くつもりでいた希美は、本人に先を越されてびっくりする。
「えっ、なんですか? 細野……さん?」
「ああ。今度ウチと資本提携を結ぶ商事会社の社長だよ」
「はあ……その方が、どうかされたのですか?」
利希は経済紙を下げ、正面を見た。湯呑みを手に、麗子が小首を傾げている。
希美はお茶を飲みつつ、母親の表情をジッと観察する。惚けたのではなく、本当に分からないようだ。
利希はじれったそうに言葉を続けた。
「どうって……大学のサークルで一緒だったそうじゃないか。付き合っていたとか? そんなようなことをチラッと聞いてな」
「はい?」
なにを言っているのだ、この人は。といったふうに、麗子は眉根を寄せる。
希美は武子にお茶を注いでくれるよう頼み、両親のやり取りに関心のない振りをした。朝っぱらからけんかを始めるのではないかと、嫌な予感がしたのだ。
だが――
「大学のサークル……あっ!」
麗子は小さく叫ぶと、笑顔になった。どうやら思い出したようである。
「誰のことかと思えば。ああ、芸術サークルで一緒だった友光君のことね。懐かしい名前だこと」
「友光……君?」
利希は不愉快そうに顔をしかめた。妻の反応が癇に障ったようだ。
「そういえば、あの方は商事会社の御曹司だったわ。そう、会社を継いで社長さんになったのねえ。ほほほ……」
なにが可笑しいのか、麗子が楽しそうに笑う。いつも澄ました彼女が、こんなにニコニコするのは珍しい。
反対に、利希はムッとしている。
(お父様……?)
バスルームでタオルを交換する武子を捕まえると、昨日のことをかいつまんで話した。昨夜は帰宅が遅くなり、報告できなかったのだ。
「それはそれは、大変良い展開でございましたねえ」
武子は驚き、感心の声を上げた。
「旦那様にそこまで言わせるとは……大したものです」
もちろん、壮二に対しての評価だ。実の親より信頼する彼女の言葉を、希美は喜んだ。
「ハラハラしたけどね。壮二って、妙な才能があるみたい」
「ほほほ……人は見かけによらぬもの。面白うございます」
廊下に出て、武子と一緒にダイニングへと歩いた。窓を照らす朝陽が、希美を清々しい気分にさせる。
「ところでお嬢様。奥様がいろいろとお調べになっていますよ」
「ああ、早速?」
母麗子は、壮二が北城家の婿に相応しいかどうか、身辺調査すると言っていた。結婚に反対する気はないだろうが、念のためである。
「大丈夫。あいつは平凡な家庭で育った、ごく普通の男だもの」
「ええ、私にもそう見えました。奥様も南村さんのことを、『本当に地味な方ねえ』なんて仰いましたが、好感を持たれたようですよ。旦那様と正反対のタイプなので、安心されたのでしょう」
「あはは、確かに」
昨日、麗子はオペラグラスを覗き、壮二を観察した。浮気の心配などこれっぽちもなさそうな様子に安心したようだ。
「そういえば武子さん。さっきも話したけど、お母様に恋人がいたなんて知ってた?」
海山商事の社長、細野友光のことだ。
「いいえ。細野というお名前にも、まったく覚えがございません」
「でしょう?」
しかし、友光の話がまるっきり嘘だとは思えない。それとなく探ってみようと希美は考えた。
そして、家族三人揃った朝食の席でのこと。
武子が食後のお茶を配るタイミングで、その話が切り出された。ただし希美ではなく、父利希の口からである。
「細野友光という男を知ってるだろう」
経済紙を広げ、正面に座る麗子を見もせず、世間話でもするかのような自然体だった。
父のいないところで訊くつもりでいた希美は、本人に先を越されてびっくりする。
「えっ、なんですか? 細野……さん?」
「ああ。今度ウチと資本提携を結ぶ商事会社の社長だよ」
「はあ……その方が、どうかされたのですか?」
利希は経済紙を下げ、正面を見た。湯呑みを手に、麗子が小首を傾げている。
希美はお茶を飲みつつ、母親の表情をジッと観察する。惚けたのではなく、本当に分からないようだ。
利希はじれったそうに言葉を続けた。
「どうって……大学のサークルで一緒だったそうじゃないか。付き合っていたとか? そんなようなことをチラッと聞いてな」
「はい?」
なにを言っているのだ、この人は。といったふうに、麗子は眉根を寄せる。
希美は武子にお茶を注いでくれるよう頼み、両親のやり取りに関心のない振りをした。朝っぱらからけんかを始めるのではないかと、嫌な予感がしたのだ。
だが――
「大学のサークル……あっ!」
麗子は小さく叫ぶと、笑顔になった。どうやら思い出したようである。
「誰のことかと思えば。ああ、芸術サークルで一緒だった友光君のことね。懐かしい名前だこと」
「友光……君?」
利希は不愉快そうに顔をしかめた。妻の反応が癇に障ったようだ。
「そういえば、あの方は商事会社の御曹司だったわ。そう、会社を継いで社長さんになったのねえ。ほほほ……」
なにが可笑しいのか、麗子が楽しそうに笑う。いつも澄ました彼女が、こんなにニコニコするのは珍しい。
反対に、利希はムッとしている。
(お父様……?)
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる