夫のつとめ

藤谷 郁

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春色革命

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 希美は出社すると、メールチェックやスケジュール確認など、朝の通常業務をこなした。
 今朝のできごとについては気になるが、プライベートな問題だ。仕事に入れば父親は社長で、希美は秘書という立場である。

「本日のスケジュールは以上です。あとこちらは、再来週の28日に業界情報誌『フードウエイブ』の取材を受けるための資料です。移動時間などに目を通しておいてください」

 希美がデスクに並べた書類を、利希は一瞥した。

「取材というと、インタビューか? テーマはなんだ」
「インターネットのセキュリティ管理について質問を受けます。例えば、食品業界で問題が多発するSNSでの情報漏洩やトラブルに対し、どのような危機管理を行っているか、などですね」

 利希はつまらなそうな顔になる。インターネットの話題は、彼の苦手分野だ。

「そんなの、専門の部署があるんだから、そっちに訊けばいいだろ」
「『フードウエイブ』は各企業のトップにインタビューしています。今の時代、情弱な経営者などあり得ないという前提でしょう。ネットに疎いだけで企業の信用を落としますから」

 希美の言い方は直球である。
 普通に言っても通じない場合、身内ならではの無遠慮な心理が働くのだろう。

「くそっ、面倒な世の中になったもんだ」
「よろしくお願いします」

 いまいましそうに資料をめくる社長から離れると、時計を確認した。今日は週の初め。放送朝礼が始まるまで、まだ余裕がある。

「悪いけど吉田よしださん、社長に朝のコーヒーをお願い。少し出てくるから」
「はい、北城さん」

 手の空いた役員秘書に用事を頼むと、オフィスを出た。



(仕事の前に、壮二の様子を見てこようっと)

 昼食会やらデートやらで疲れていないか、気になった。壮二のことだから元気に出社していると思うが、顔を見ておきたい。

「あらっ?」

 廊下を歩いていくと、堀田課長が営業部の前に立っていた。

「堀田さん、おはようございます」
「おう、北城」

 希美に気づくと軽く手を上げた。相変わらず熊のように大きな体を揺すり、こちらに近づいてくる。

「朝っぱらから何の用事かな?」

 堀田は腕組みの格好で、希美の前に立ち塞がった。不審者を警戒するかのような目で見下ろしてくる。

「南村さんに用があるの。どいてくださる?」
「北城……」

 彼はふうっと、ため息をついた。どうやら、大事な部下をからかいに来たと思っている。

「お前さん、あいつをどうしようってんだ」
「どうって……結婚するつもりよ?」
「あのなあ」
 
 ゆるゆると首を横に振った。話にならんという態度である。
 希美はちょっとイライラした。

「時間が無いの。早くどいてください」
「あいつを秘書課に引っ張るそうだな。本気なのか」
「えっ?」
「今朝早く、営業部長と俺に電話があった。社長から直々にな。南村は娘の婚約者候補だとも……まったく、親子揃って何を考えているのやら」

 希美はびっくりする。壮二との結婚を渋々承知した父にしては、随分スピーディな段取りだ。

「お父様が、そんなことまで?」
「ああ」
「ふうん……ていうか、それなら話が早いわ。彼との結婚は社長も認めてることよ。壮二に会わせて」
「……」

 権威を笠に着るが、堀田はびくともしない。動かざること山のごとしである。

「北城、俺はお前のことを信用してる。プライドが高くて、有能で、向こう気の強いお嬢様ではあるが、男を弄ぶような人間だとは思っていない。事情があるのか知らんが、今回はちょっとやりすぎだぞ」

 骨の髄まで体育会系の堀田は上司を敬う。そして同じくらい部下を大切にする。可愛い部下を振り回す希美の暴挙を、容認できないのだ。
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