72 / 179
春色革命
1
しおりを挟む
希美は出社すると、メールチェックやスケジュール確認など、朝の通常業務をこなした。
今朝のできごとについては気になるが、プライベートな問題だ。仕事に入れば父親は社長で、希美は秘書という立場である。
「本日のスケジュールは以上です。あとこちらは、再来週の28日に業界情報誌『フードウエイブ』の取材を受けるための資料です。移動時間などに目を通しておいてください」
希美がデスクに並べた書類を、利希は一瞥した。
「取材というと、インタビューか? テーマはなんだ」
「インターネットのセキュリティ管理について質問を受けます。例えば、食品業界で問題が多発するSNSでの情報漏洩やトラブルに対し、どのような危機管理を行っているか、などですね」
利希はつまらなそうな顔になる。インターネットの話題は、彼の苦手分野だ。
「そんなの、専門の部署があるんだから、そっちに訊けばいいだろ」
「『フードウエイブ』は各企業のトップにインタビューしています。今の時代、情弱な経営者などあり得ないという前提でしょう。ネットに疎いだけで企業の信用を落としますから」
希美の言い方は直球である。
普通に言っても通じない場合、身内ならではの無遠慮な心理が働くのだろう。
「くそっ、面倒な世の中になったもんだ」
「よろしくお願いします」
いまいましそうに資料をめくる社長から離れると、時計を確認した。今日は週の初め。放送朝礼が始まるまで、まだ余裕がある。
「悪いけど吉田よしださん、社長に朝のコーヒーをお願い。少し出てくるから」
「はい、北城さん」
手の空いた役員秘書に用事を頼むと、オフィスを出た。
(仕事の前に、壮二の様子を見てこようっと)
昼食会やらデートやらで疲れていないか、気になった。壮二のことだから元気に出社していると思うが、顔を見ておきたい。
「あらっ?」
廊下を歩いていくと、堀田課長が営業部の前に立っていた。
「堀田さん、おはようございます」
「おう、北城」
希美に気づくと軽く手を上げた。相変わらず熊のように大きな体を揺すり、こちらに近づいてくる。
「朝っぱらから何の用事かな?」
堀田は腕組みの格好で、希美の前に立ち塞がった。不審者を警戒するかのような目で見下ろしてくる。
「南村さんに用があるの。どいてくださる?」
「北城……」
彼はふうっと、ため息をついた。どうやら、大事な部下をからかいに来たと思っている。
「お前さん、あいつをどうしようってんだ」
「どうって……結婚するつもりよ?」
「あのなあ」
ゆるゆると首を横に振った。話にならんという態度である。
希美はちょっとイライラした。
「時間が無いの。早くどいてください」
「あいつを秘書課に引っ張るそうだな。本気なのか」
「えっ?」
「今朝早く、営業部長と俺に電話があった。社長から直々にな。南村は娘の婚約者候補だとも……まったく、親子揃って何を考えているのやら」
希美はびっくりする。壮二との結婚を渋々承知した父にしては、随分スピーディな段取りだ。
「お父様が、そんなことまで?」
「ああ」
「ふうん……ていうか、それなら話が早いわ。彼との結婚は社長も認めてることよ。壮二に会わせて」
「……」
権威を笠に着るが、堀田はびくともしない。動かざること山のごとしである。
「北城、俺はお前のことを信用してる。プライドが高くて、有能で、向こう気の強いお嬢様ではあるが、男を弄ぶような人間だとは思っていない。事情があるのか知らんが、今回はちょっとやりすぎだぞ」
骨の髄まで体育会系の堀田は上司を敬う。そして同じくらい部下を大切にする。可愛い部下を振り回す希美の暴挙を、容認できないのだ。
今朝のできごとについては気になるが、プライベートな問題だ。仕事に入れば父親は社長で、希美は秘書という立場である。
「本日のスケジュールは以上です。あとこちらは、再来週の28日に業界情報誌『フードウエイブ』の取材を受けるための資料です。移動時間などに目を通しておいてください」
希美がデスクに並べた書類を、利希は一瞥した。
「取材というと、インタビューか? テーマはなんだ」
「インターネットのセキュリティ管理について質問を受けます。例えば、食品業界で問題が多発するSNSでの情報漏洩やトラブルに対し、どのような危機管理を行っているか、などですね」
利希はつまらなそうな顔になる。インターネットの話題は、彼の苦手分野だ。
「そんなの、専門の部署があるんだから、そっちに訊けばいいだろ」
「『フードウエイブ』は各企業のトップにインタビューしています。今の時代、情弱な経営者などあり得ないという前提でしょう。ネットに疎いだけで企業の信用を落としますから」
希美の言い方は直球である。
普通に言っても通じない場合、身内ならではの無遠慮な心理が働くのだろう。
「くそっ、面倒な世の中になったもんだ」
「よろしくお願いします」
いまいましそうに資料をめくる社長から離れると、時計を確認した。今日は週の初め。放送朝礼が始まるまで、まだ余裕がある。
「悪いけど吉田よしださん、社長に朝のコーヒーをお願い。少し出てくるから」
「はい、北城さん」
手の空いた役員秘書に用事を頼むと、オフィスを出た。
(仕事の前に、壮二の様子を見てこようっと)
昼食会やらデートやらで疲れていないか、気になった。壮二のことだから元気に出社していると思うが、顔を見ておきたい。
「あらっ?」
廊下を歩いていくと、堀田課長が営業部の前に立っていた。
「堀田さん、おはようございます」
「おう、北城」
希美に気づくと軽く手を上げた。相変わらず熊のように大きな体を揺すり、こちらに近づいてくる。
「朝っぱらから何の用事かな?」
堀田は腕組みの格好で、希美の前に立ち塞がった。不審者を警戒するかのような目で見下ろしてくる。
「南村さんに用があるの。どいてくださる?」
「北城……」
彼はふうっと、ため息をついた。どうやら、大事な部下をからかいに来たと思っている。
「お前さん、あいつをどうしようってんだ」
「どうって……結婚するつもりよ?」
「あのなあ」
ゆるゆると首を横に振った。話にならんという態度である。
希美はちょっとイライラした。
「時間が無いの。早くどいてください」
「あいつを秘書課に引っ張るそうだな。本気なのか」
「えっ?」
「今朝早く、営業部長と俺に電話があった。社長から直々にな。南村は娘の婚約者候補だとも……まったく、親子揃って何を考えているのやら」
希美はびっくりする。壮二との結婚を渋々承知した父にしては、随分スピーディな段取りだ。
「お父様が、そんなことまで?」
「ああ」
「ふうん……ていうか、それなら話が早いわ。彼との結婚は社長も認めてることよ。壮二に会わせて」
「……」
権威を笠に着るが、堀田はびくともしない。動かざること山のごとしである。
「北城、俺はお前のことを信用してる。プライドが高くて、有能で、向こう気の強いお嬢様ではあるが、男を弄ぶような人間だとは思っていない。事情があるのか知らんが、今回はちょっとやりすぎだぞ」
骨の髄まで体育会系の堀田は上司を敬う。そして同じくらい部下を大切にする。可愛い部下を振り回す希美の暴挙を、容認できないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる