夫のつとめ

藤谷 郁

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みなみかぜ

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 土曜日の午前中。
 希美がリビングでコーヒーを飲んでいると、麗子が入ってきて正面に座った。いつになくニコニコしている。

「希美、今日はエステだったわね。もう出かけるの?」
「ううん、まだだけど」
「そう。なら、ちょっとお話をさせてね」

 麗子がテーブルにB4の封筒を置いた。それが何であるのかピンときた希美は、カップを置いて背筋を伸ばす。

「もう調べたんだ」
「ええ」

 封筒には◯◯調査事務所と印刷されている。北城家御用達の興信所だ。

「先ほど所長さんが届けてくださったの。南村壮二さんについての調査結果よ」

 麗子の表情は明るい。壮二の周辺に、結婚に関する不安材料は見当たらなかったようだ。
 予想どおりの結果だが、希美はあらためて安心する。

「壮二さんは平均的な家庭でお育ちになった、ごく普通の人ね。学生時代は金銭面でご苦労されたようだけど」
「うん」

 希美は報告書を手に取り、目を通した。さほど詳細ではなく、壮二から聞いた話が、そのまま書かれている。

「実家の住所は、東京都〇〇市△△町2丁目1番地。家族は両親と本人の三人で、兄弟はなし……」

 壮二は学生時代、貧乏だったという。報告書には、その原因となった両親の事情が記載されていた。

『南村仙一せんいち美佐子みさこ夫妻は、平成5年に結婚。平成7年に食堂「南風みなみかぜ」を開業(翌年春に長男・壮二誕生)夫妻の人柄の良さと素朴な定食が人気。しかし平成27年経営難に陥り同店を閉業。近所にファミリーレストランが相次いでオープンしたのが主な原因である。また、近隣大学のキャンパス移転により学生の来店がゼロなったのも大きな痛手だった――』

「壮二さんは親御さんの仕送りには頼れず、奨学金とアルバイトで大学生活を乗り切ったそうね。ノルテフーズに入社するくらいだから、勉強もかなり頑張ったのでしょう。立派な青年だわ」

 苦学生だった壮二に、麗子はいたく感心する。
 希美と同じくお金の苦労をしたことがないので、特別なものを感じるのだろう。

『その後、南村夫妻は借金を抱えながらも商売の準備を進める。平成30年、惣菜屋「みなみかぜ」を開業。ヘルシーかつ便利なメニューを揃え、店舗販売の他、インターネットでも受注した。地道な営業活動が実を結び、徐々に収益が上昇。特筆すべきは食堂時代に開発したオリジナル調味料(中華そばのスープに使う液体調味料)の販売である。あらゆる料理の隠し味になると口コミで評判になった。人気商品は売上に大きく貢献し、商売は成功を収めることとなった』

「へえ、すごいじゃない」

 壮二の実家が商売に成功したとは聞いたが、こんなエピソードがあるとは知らなかった。


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