夫のつとめ

藤谷 郁

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和やかな時間

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日曜日の午前中。
 北城家の客間で、利希と麗子、そして希美が待機している。

「あら、いらしたみたいよ」

 インターホンが鳴ったのは10時ちょうど。待ちわびた麗子が、嬉しそうに顔を綻ばせる。
 約束どおり、壮二がやって来たのだ。
 希美が出迎えようとしてソファを立つと、利希が制止した。

「お前は座っていなさい。武子さんが連れて来るだろ」

 利希はソファの背にもたれ、ゆったりと構える。麗子ほどではないが、どこか楽しげな様子だ。
 希美は肩をすくめて、ソファに座り直した。


「こんにちは。おじゃまいたします」

 壮二は武子の案内で部屋に通された。
 黒髪をきれいに梳かし、服装はジャケットにパンツという崩れすぎないスタイル。青年らしい爽やかな姿に、麗子が目を輝かせる。

「ようこそ、南村さん。お会いできて嬉しいわ」

 初めて面会する麗子に対し、壮二は姿勢を正して挨拶する。手土産も持参していた。

「あら? 肩に雨粒がついてるわ。武子さん、タオルを持ってきて」
 
見ると、壮二のジャケットにしずくが光っている。今日は朝から小雨がぱらつき、あいにくの天気だ。車から移動する間に濡れたのだろう。

「そういえば、この時期にしては肌寒いわ。ごめんなさいね、こんな日にお呼び立てして」
「いえ、そんな。大丈夫です」

 恐縮する壮二に、武子がタオルを差し出す。

「お客様。どうぞ、お使いください」
「あっ、すみません」

 壮二はなぜか驚いた顔でタオルを受け取り、ジャケットに軽く押し当てるとすぐに返した。ずいぶん遠慮した態度である。

「ありがとうございます。ええと、あなたは武子さん……でしたね」
「さようでございます。家政婦の山際武子と申します」

 武子はにこりと笑うが、その目はじろじろと壮二を見回す。
 どこかイヤらしい目つきに感じるのは気のせいだろうか。希美はそれとなく間に入ってあげた。

「武子さん、コーヒーをお願い。ケーキも付けてね」
「かしこまりました、お嬢様」

 武子が部屋を出ると、壮二がホッとした様子になる。そんなに怖がらなくてもいいのにと、希美は笑いそうになった。

(さすがの壮二も、武子さんの迫力には圧倒されたみたいね)

 格闘技の選手だった武子は、腕っぷしはもちろん、体つきもその辺の男に負けていない。希美の恋人だったガチマッチョたちも、彼女には一目置いたものだ。恐れたと言ってもいい。

 でも、壮二は武子と仲良くしてほしい。希美にとって、どちらも大切な存在だから。
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