夫のつとめ

藤谷 郁

文字の大きさ
89 / 179
招かれざる客

1

しおりを挟む
 その後、壮二は約束どおり麗子の編み物、利希のパソコンにそれぞれ2時間ずつ付き合った。
 ようやく解放された頃、外は日が暮れていた。
 


 午後9時。親子三人は、玄関の外まで壮二を見送った。
 雨が上がり、空に星が瞬いている。

「今日は本当に、お世話になりました。夕飯までご馳走になってしまい、すみません」
「どういたしまして。こちらこそ、あなたとのおしゃべりが楽しくて、つい引き留めてしまったわ」

 麗子が嬉しそうに微笑む。初めから好意的な母だが、さらに親しげな雰囲気だ。編み物の効果は絶大だわ……と、希美は感心する。

 壮二は器用だった。麗子の指導を素直に受け止め、希美が投げ出した編み物の基礎を、すいすいとクリアしてしまったのだ。
 麗子は喜び、さらに高度な技術を教えていく。
 結果、希美の腹巻きはピンクとホワイトのグラデーションに薔薇の模様が散りばめられた、エレガントな一品に仕上がった。
 
(腹巻きなんて人に見せるわけじゃなし、凝ったデザインにしてどうすんのかしら……ていうか壮二、凄すぎ)
 
 壮二の手編み腹巻きは、お腹に心地よくフィットした。いつか必要になるとしたら、とても役に立つだろう。
 試着した希美は、『あなたのために、愛情を込めて編みました』という言葉とともに、ありがたく受け取ったのである。

「社長、今日はありがとうございます。お休みの日に、おじゃまいたしました」
「なに、たまにはこんな休日もいいだろう」

 利希もご機嫌だった。
 壮二のおかげで、苦手なパソコン操作をマスターしたらしく、ついでにスマホアプリをいくつか入れてもらったと、喜んでいる。

「お前は一応、希美の婚約者だからな。ウチに来たければいつでも来るがいい」
「はいっ。ありがとうございます」

(一応は余分でしょ)

 心中で突っ込むが、まあよしとする。
 壮二を迎える気持ちは本物だろう。父の素直じゃない性格は、よく分かっていた。

「壮二さん、ご両親によろしくお伝えくださいね。なるべく早くご挨拶がしたいわ」
「はい。なるべく早く」

 麗子と約束すると、壮二は希美に微笑みかけた。希美も満足の笑みを返し、うんうんとうなずく。
 壮二の来訪は、予想以上の成功をおさめた。二人の結婚は、すぐにでも実現すると感じている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...