夫のつとめ

藤谷 郁

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逢引!?

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「やあ皆さん、こんばんは。突然の訪問をお許しください」

 と言いながら、幸一に悪びれた様子はない。
 海山商事にとってノルテフーズは格下の取引先なので、舐めているのだろう。

(まったくこの男は……どんな躾をされてんのよ)

 希美は細野社長を思い浮かべ、ひそかに毒づいた。
 いや、あの父親に躾けられたからこそ、こうなったのだ。幸一は外見のみならず、中身まで親そっくりに出来上がっている。
 ただ、大狐の友光に比べると、かなり小物だった。

「とんでもない、他ならぬ細野専務のご来訪です。いつでも大歓迎ですよ」

 こちらの大狸は、嫌悪感をおくびにも出さず余裕で対応する。心からの歓迎に見えるからすごい。

「さあどうぞ中にお入りください。武子さん、お茶の用意を……」
「いえ、社長。今夜はすぐに帰りますので、お構いなく」
「おや、そうですか。せっかくお見えになられたのに、それは残念ですな」

 そらぞらしいやり取りにげんなりするが、幸一がすぐに帰ると聞いて、希望は安堵した。何の用事か知らないが、平穏な時間を乱さぬようとっとと帰ってほしい。
 
 幸一がキザな笑みを浮かべ、北城家の面々を見回す。しかしその中に壮二がいるのに気づくと、一瞬だけ表情を硬くした。

「ああ、奥様。初めまして。私は海山商事専務取締役の細野幸一と申します」

 彼は麗子の前に進み、恭しくお辞儀した。

「北城社長には、父ともどもお世話になっております」
「初めまして。こちらこそ、主人が大変お世話になっております」

 麗子は少し戸惑った様子だが、すぐに親しみのこもる声で挨拶を返した。彼女にとって幸一は、懐かしい学友の息子である。

「幸一さん。あなたのお父様のことはよく存じ上げております。お会いできて嬉しいわ」
「はい。私も、奥様との間柄について父から聞いております。今日も出かけるさい、麗子さんにくれぐれもよろしくと申しておりました。どうぞ、これを……」
「えっ?」

 幸一が薔薇の花束を差し出す。その行為に、麗子はもちろん、周りもびっくりした。

(あの花束、お母様に渡すつもりだったの? えっ……ということは)

 麗子の隣で、利希が顔を引きつらせている。さしもの大狸も、大狐が絡んでくると平常心をなくしてしまうようだ。

 しかし麗子は、そんな夫の心情に気づかない。希美はハラハラしながら成り行きを見守った。

「薔薇は父からの贈り物。そして、奥様への『メッセージ』が添えられています」
「は、はあ……」
「ぜひ、ご覧ください」

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