夫のつとめ

藤谷 郁

文字の大きさ
93 / 179
三通の招待状

1

しおりを挟む
「希美さん、お久しぶりですね。急ぎの用件ではないのですが、あなたにお会いしたくて車を飛ばしてきました」
「それはどうも……」

 甘ったるい顔立ちと、ひょろっとした体型。気障なセリフ。
 ナルシストを絵に描いたようなこの男は、女はすべて自分の虜だと思っているのだろう。そうでなければ、これほど偉そうな態度は取れない。
 はっきり言って、最も嫌いなタイプだ。

「ちなみにあれは、先月購入したばかりの新車です。なかなか洒落てるでしょう?」

 幸一は自慢げに、門扉を塞ぐように路駐した車を指差す。

「はあ。とても先進的なデザインですね」

 あの車も希美の趣味ではない。とりあえず褒めたのは社交辞令だ。

「ふふ……あなたを乗せてドライブに出かけたいのですが、レディを誘うには遅い時間だ。今夜はあきらめてください」
「へっ? あ、はあ……それは、残念なことで……」

(何なのこの人。どうして私があきらめる体になってるわけ?)

 麗子から聞かされた、細野友光の若い頃にそっくりだと思った。親子揃って、とんでもない己惚れ屋である。

「ところで、北城社長にお伝えしていただく用件ですが、実はあなたにも関係があるのです」
「えっ?」

 意味ありげな目つきで、幸一が見つめてくる。後ずさりしそうになるが、なんとかふんばった。
 壮二がそばにいなければ、逃げ出しただろう。

「私に関係があるとは、どういうことでしょう」
「これです」

 幸一がスーツの内ポケットから封筒を取り出した。全部で三通ある。
 
「一通はあなたに。どうぞ、ご覧になってください」

 希美はいぶかりながらも、幸一に促されて封を開けた。壮二は後ろに控え、黙って様子を見ている。

「海山商事株式会社代表取締役社長、細野友光誕生記念パーティー……これは、招待状?」
「そう。海山商事では毎年、山梨の別荘で父の誕生パーティーを開いています。身内の他、取引先の重役も招待しているのですが、今年は北城家の皆さんもぜひお招きしたいと父が申しまして、こうしてお知らせに参ったわけです」
「それはわざわざ、ありがとうございます」

 取引先社長の誕生パーティーとは、何とも気乗りしない話である。
 希美は礼を言いながら断る口実を探すが、すぐには見つからない。せめて郵送ならば、考える余裕が持てたのに。

「あとの二通は、北城社長と奥様への招待状です」

 差し出された封筒を、仕方なく受け取った。

「希美さん。出席してくださいますよね」
「え、ええ……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...