夫のつとめ

藤谷 郁

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あからさまな女たち

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「イタリアンスタイルか。ほう、なかなか似合ってるじゃないか」

 希美と同時に社長室に入ってきた利希が、壮二の姿をじろじろと眺め回した。希美はその後ろから、そわそわと見守る。

「高級スーツなど似合わんと思っていたが、これは驚きだ。なあ、希美。お前もびっくりしたろう」
「えっ? あ、ええ……それはもう」

 本当に、ここまで着こなせるとは予想外だった。女性社員の反応を考えると、いいような悪いような、複雑な気分なのだが。

「ふむ。なんでか背が伸びて見えるな。いつもより姿勢がいいからか?」
「『白樺』のオーナーにアドバイスされたんです。猫背では、せっかくのラインが崩れてしまうと」
「なるほど」

 希美は納得した。
 背筋を伸ばし胸を張ることで、自信に満ちた男に感じられる。
 オーナーは、アドバイスという魔法をかけたのだ。

「素晴らしいスーツをありがとうございます。中身もともなうよう、頑張ります」

 謙虚なところは、いつもの壮二である。希美は少しホッとして、あらためて彼の全身を見直す。

(野暮な格好も壮二らしいけど、今日は一皮むけた男って感じで、素敵)

 つい見惚れてしまい、視線に気づいた壮二から思わず目を逸らした。

(やっぱり複雑な気分。今の壮二なら、秘書課の女性社員だけではなく、他部署の女からも注目されてしまいそう……)

「なんだ希美。まさかお前、こいつがモテ始めるんじゃないかと心配してるのか」
「はいい!?」

 利希にズバリと指摘され、上ずった声が出た。

「そそっ、そんなわけないでしょう。高級なスーツを着たくらいでそんな……モテるなんてこと……っ」

 希美はうろたえまくった。本音ダダ漏れ状態の娘を、利希は笑い飛ばした。

「安心しろ。このていどの男ぶり、若い頃の俺に比べたら大したことない。それに、いくらスタイリッシュになろうと壮二は壮二だからな。器用に女を口説くプレイボーイになどなれやしないぞ」
「う……」

 元イケメンの女たらし――数多あまたの女性を口説きまくってきた父の言葉には説得力があった。
 確かに、外見がレベルアップしても壮二は壮二。地味な中身は変わらないだろうし、調子に乗って女を口説くなど考えられない。

 いくら女性の人気を集めようと、浮気なんて――

「べ、別に、心配なんてしてません。勝手に推測されては困ります」

 壮二がくるりとした目をこちらに向ける。どこか嬉しそうな表情が憎らしい。

「南村さん。ぼうっとしてないで仕事を始めるわよ。未処理の稟議書をチェックして、社長のサインを確認後、各部署に連絡してください。それが終わったら……」

 てきぱきと指示する希美だが、それはいたたまれない気持ちを隠すポーズ。だけど隠しきれず、頬もうなじも、正直な色に染まっていた。
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