夫のつとめ

藤谷 郁

文字の大きさ
109 / 179
ボディガード

2

しおりを挟む
「顔合わせが終り、結納や式の予定もおおまかに決まった。細かいことはお前たちに任せるが、一応、我々にも報告するようにな」
「はい、承知しています」
「こっちも披露宴の招待客をリストアップしておく。結構な人数になるだろうから、早めに式場を確保したほうがいい」

 二人の結婚に両家は合意した。この先も、トントン拍子にことは進むだろう。秋には入籍し、壮二との新婚生活が始まるのだ。

「今日は楽しかったけど、さすがに疲れたわ。私、部屋で少し横になってきますね」

 麗子が小さなあくびをしながらソファを立つ。彼女がリビングを出て行くと、入れ替わりに武子が入ってきた。急須を載せた盆を手にしている。

「旦那様、おかわりはいかがですか」
「うむ、もらおうか」

 利希はドアのほうをチラッと見てから、ヒソヒソ声で希美に言った。

「ところで、例の細野社長の誕生パーティーだがな。壮二を連れて行ったらどうだ」
「えっ?」

 大真面目な父の顔つきを見て、希美は眉を曇らせる。

「でも、招待状がないから、会場に入れないわ」
「そうじゃなくて。壮二を連れてパーティー会場まで行くことに意味があるんだよ。要するに、壮二はお前の婚約者だと、細野親子に決定的に分からせてやることだ。この前のバカ息子……細野専務の態度から察するに、あいつらはウチとの政略結婚をあきらめていない。壮二からお前を奪うつもりでいるぞ」
「……う、うーん」

 おそらく利希の想像は当たっている。だけど、もしそうだとしても……

 武子が注いでくれたお茶をゆっくりと飲む。細野幸一の顔を思い出すと、ムカムカしてくる。あんなやつ、放っておけばいい。

「断り続ければいいじゃない。いくらなんでも、そのうちあきらめるでしょ」
「ダメだ。細野親子に、お前らなど眼中にないと、知らしめてやるんだ!」

 希美は湯呑みを置くと、冷めた目で父を眺めた。この人は細野幸一ではなく、むしろ友光を警戒している。妻麗子を奪われまいと、必死になっているのだ。

「大変でございますねえ」

 大体の事情を知る武子は、深いため息をついた。彼女だけは、希美のことを心から案じてくれている。

「決定的に分からせるって、どうやるのよ?」
「だから壮二と連れ立って会場に行き、式の日取りが決まったと言ってやれ。何なら、入籍済みだとホラを吹いてもいい」

 希美はちょっと呆れた。いくら何でも、取引先にそんな嘘はつけない。

「そんなやり方は禍根を残します」
「だがな、希美」
「お父様、それは公私混同です」

 しつこい父をキッと睨むと、強い口調で意思表示した。もう、いいかげんにしてほしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...