夫のつとめ

藤谷 郁

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ボディガード

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「細野幸一に何度言い寄られても、私はきちんとお断りします。それより、細野社長にお母様を奪われたくないなら、お父様がしっかり捕まえておけばいいんじゃないですか?」

 はっきり言ってやった。意地っ張り夫婦に付き合わされるのは、もうごめんだ。ましてや壮二を巻き添えにするなんて許せない。

「な、何を言ってるんだ。お母さんのことなんて俺は別に……」
「もうバレバレですよ、旦那様」

 武子がやんわりと口を挿む。希美はプイと横を向き、父に言い返す言葉を呑み込んだ。

「は? バレバレって……武子さん」
「奥様も、旦那様の血圧がなぜ上がったのか、ちゃーんと分かっておいでです。いいかげん、素直になられたらいかがですか?」

 主人に対し、武子がここまで言うのは初めてだった。彼女は希美の唯一の理解者であり、希美のために代弁してくれている。
 利希は恥ずかしいような、怒ったような、複雑な表情で武子を見上げた。

「敵わないな、あんたには」

 勤続28年。北城家の事情を知り尽くす家政婦に、利希は降参する。

「希美の言うとおり、お母さんのことは俺が捕まえておこう」

 希美は思わず、父に顔を戻した。今度は利希のほうが、気まずそうに横を向く。

「だがな、今度のパーティーであいつらが何か仕掛けてくるのは明白だ。壮二に、希美のそばについていてほしいんだよ。こんなきつい娘でも、一応女だからな」

 気になる言い方だが、それが利希の照れ隠しだと、希美は知っている。

(そうだったの。壮二に私のボディガードをしてほしくて、連れて行けと……)

「壮二がダメなら、武子さん。あんたが頼まれてくれないか。希美をバカ息子から守ってくれ」

 武子は顎を撫で、思案顔になる。
 彼女は希美が生まれた時から、子守役にしてボディガードでもあった。もちろん頼まれてくれるだろうと、利希は期待する。

 しかし――

「旦那様、私ももう年でございます。加齢による衰えは、いかんともしがたく」
「はあ?」

 父娘は同時に声を上げる。武子らしからぬ発言だった。

「ばかな、どこが衰えてるって言うんだ。この前も、米一俵を片手で担いでたじゃないか」

 一俵は60キロ。さすが武子だと、希美は感心するが……

「まあ、それはそれとして。実は私、そろそろボディガード役をバトンタッチする頃だと考えておりまして」
「誰に?」

 またしても声を揃える父娘。武子は苦笑を浮かべながらも、はっきりと答えた。

「もちろん、南村壮二さんです。彼をおいて他に、お嬢様を守れる人はいません」
 
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