119 / 179
大物かもしれない
2
しおりを挟む
「正直なところ、こういったパーティーは苦手でねえ。今日も来るかどうか迷っていたんだが、北城家のお嬢さん……希美さんと出会えたのは幸運だ。来て良かったよ」
「こちらこそ、お会いできて光栄です」
壮太がグラスを掲げたので、希美もそれに合わせた。氷が揺れて、爽やかな音を立てる。
「おや? 希美さん、その指輪は……」
壮太が希美の薬指に目をとめた。顔をぐっと近づけてくる。
「あ、あの?」
「もしかして、結婚指輪かな」
生真面目な口調だった。
「いえ、これはペアリングです」
「ほほう。しかし左手の薬指というのは意味深だ……そのお相手とは、結婚の約束を?」
どうしてか、険しい表情になった。さっきまで豪快に笑っていたのに。
希美は戸惑いつつ、「はい」と正直に答えた。
「そうか、既に結婚の約束を……」
「え?」
続く言葉は、突如上がった花火の音にかき消された。
広間でイベントが始まるらしく、今の一発は、その合図のようだ。
「なんだ、花火か。派手な演出だなあ」
「え、ええ」
壮太が親しげな笑みを浮かべ、希美と向き合う。先ほどの不穏なムードは、すっかり消えていた。
「しかし、なるほど……希美さんはご結婚されるのですか。いやあ、お相手の男性が羨ましいなあ」
「う、うらやま……?」
きょとんとする希美に、彼は大げさに肩をすくめてみせた。
「俺は独り者だからね」
「そうなんですか?」
希美は意外だった。彼の年恰好や落ち着きぶりから、勝手に既婚者と思い込んでいた。
「希美さんのような美しいお嬢さんと結婚したいと思ってるんだが、なかなかご縁がなくてねえ。そうかあ、あなたはもうすぐご結婚されるのですか。残念だなあ」
冗談なのか本気なのか判然としない。まさか、セクハラでもないだろうし。
何と返せばいいのか分からず、希美は口ごもった。
「はっははは……いや、失礼」
壮太はカクテルを飲み干し、ふうっと息をついた。
「北城家のお嬢さんともなれば、さぞかし立派な方をお選びでしょうな」
「えっ? あ、あの……ええと」
つまり、御曹司とかイケメンハイスペックとか、そんなような男が相手だろうと、彼は推測している。
あてずっぽうではなく、それが一般的な見方なのだ。
しかし希美の理想は世間とは真逆である。信じてもらえないかもしれないが、希美は胸を張って答えた。
「私の婚約者は、普通の会社員です。年下で、地味で、立派ではないかもしれない。でも、私にとっては、誰よりも魅力的な男性なのです」
「ふむ……」
壮太はふっと、目を細めた。
「その地味な男を、誰よりも愛していると」
「はい」
広間から歓声が上がる。
マジシャンでも来ているのか、開け放した窓から鳩が羽ばたいていった。
「素晴らしい。憎らしいほど素晴らしい女性だな、希美さんは」
「お、恐れ入ります……??」
憎らしいとはどういう意味だろう。何か気に障ったのかと心配するが、壮太はやはり微笑んでいる。
「希美さんの心を射止めたその男を、一度見てみたいものだ。案外、とんでもない大物かもしれないぞ」
「え……」
壮太はくるりと背を向けると、片手をひょいと上げて立ち去った。
あっけない退場。
しかし、彼が残した言葉は希美の中で深い余韻となり、響いてくる。
(とんでもない大物……)
ぼんやりと佇む希美。
その無防備な姿を、二人の人物が見つめているのを彼女は知らない。
パーティーはまだ、終わっていなかった。
「こちらこそ、お会いできて光栄です」
壮太がグラスを掲げたので、希美もそれに合わせた。氷が揺れて、爽やかな音を立てる。
「おや? 希美さん、その指輪は……」
壮太が希美の薬指に目をとめた。顔をぐっと近づけてくる。
「あ、あの?」
「もしかして、結婚指輪かな」
生真面目な口調だった。
「いえ、これはペアリングです」
「ほほう。しかし左手の薬指というのは意味深だ……そのお相手とは、結婚の約束を?」
どうしてか、険しい表情になった。さっきまで豪快に笑っていたのに。
希美は戸惑いつつ、「はい」と正直に答えた。
「そうか、既に結婚の約束を……」
「え?」
続く言葉は、突如上がった花火の音にかき消された。
広間でイベントが始まるらしく、今の一発は、その合図のようだ。
「なんだ、花火か。派手な演出だなあ」
「え、ええ」
壮太が親しげな笑みを浮かべ、希美と向き合う。先ほどの不穏なムードは、すっかり消えていた。
「しかし、なるほど……希美さんはご結婚されるのですか。いやあ、お相手の男性が羨ましいなあ」
「う、うらやま……?」
きょとんとする希美に、彼は大げさに肩をすくめてみせた。
「俺は独り者だからね」
「そうなんですか?」
希美は意外だった。彼の年恰好や落ち着きぶりから、勝手に既婚者と思い込んでいた。
「希美さんのような美しいお嬢さんと結婚したいと思ってるんだが、なかなかご縁がなくてねえ。そうかあ、あなたはもうすぐご結婚されるのですか。残念だなあ」
冗談なのか本気なのか判然としない。まさか、セクハラでもないだろうし。
何と返せばいいのか分からず、希美は口ごもった。
「はっははは……いや、失礼」
壮太はカクテルを飲み干し、ふうっと息をついた。
「北城家のお嬢さんともなれば、さぞかし立派な方をお選びでしょうな」
「えっ? あ、あの……ええと」
つまり、御曹司とかイケメンハイスペックとか、そんなような男が相手だろうと、彼は推測している。
あてずっぽうではなく、それが一般的な見方なのだ。
しかし希美の理想は世間とは真逆である。信じてもらえないかもしれないが、希美は胸を張って答えた。
「私の婚約者は、普通の会社員です。年下で、地味で、立派ではないかもしれない。でも、私にとっては、誰よりも魅力的な男性なのです」
「ふむ……」
壮太はふっと、目を細めた。
「その地味な男を、誰よりも愛していると」
「はい」
広間から歓声が上がる。
マジシャンでも来ているのか、開け放した窓から鳩が羽ばたいていった。
「素晴らしい。憎らしいほど素晴らしい女性だな、希美さんは」
「お、恐れ入ります……??」
憎らしいとはどういう意味だろう。何か気に障ったのかと心配するが、壮太はやはり微笑んでいる。
「希美さんの心を射止めたその男を、一度見てみたいものだ。案外、とんでもない大物かもしれないぞ」
「え……」
壮太はくるりと背を向けると、片手をひょいと上げて立ち去った。
あっけない退場。
しかし、彼が残した言葉は希美の中で深い余韻となり、響いてくる。
(とんでもない大物……)
ぼんやりと佇む希美。
その無防備な姿を、二人の人物が見つめているのを彼女は知らない。
パーティーはまだ、終わっていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる