123 / 179
彼女の正体
1
しおりを挟む
「無駄だと言うのがわからんのか、この小娘!」
友光は声を荒げ、手を振り上げた。
「きゃああっ」
打ぶたれる刹那、希美は自分の傲慢を悔いた。
私は壮二に愛されている。ピンチになれば、必ず彼が助けてくれる。
でも彼はスーパーマンじゃない。もっと自分自身で考えて行動し、自衛するべきだったのに。
壮二がこのことを知れば、死ぬほど悲しみ、苦しむに違いない。
彼にそんな思いをさせてしまうことが、何よりも辛い。
「わあ、びっくり。こんなところに部屋がある!!」
突然、裏返った声が部屋に響いた。
どこかで聞いたような、でも知らないような、不思議な声音。
ただひとつ言えるのは、ここにいる4人以外の誰かが現われたということ。
「な、何だお前は?」
友光は狼狽し、振り上げた手を下ろす。彼の問いは、通路の出入り口に立ちはだかる"彼女"に向けられていた。
「すみませーん。おトイレの鏡がドアみたいに開いてたので、変だなあと思って中を覗いたんです。そしたら通路があるじゃないですか。どうなってるんだろうと思って中に入ったら、なぜかここに出ちゃって。もしかして、隠し通路ってやつですかあ? ていうか、何だかお取込み中だったみたい?」
ビン底眼鏡に三つ編みの、体格のいい配膳係の女だ。興味津々の様子で、部屋の中と、4人の男女を見回している。
(まさか……)
希美は呆然としながらも、突然、何もかもを理解することができた。
「お母様、もう大丈夫よ」
「……希美?」
友光と幸一の意識は、いきなり出現した『彼女』に集中している。その隙に希美は、麗子の手足を縛るベルトを素早く解いた。
心臓が早鐘を打つ。
「鏡を開けっ放しで来たのか、幸一」
「そんなはずはない。確かに閉めましたよ!」
「だったらなぜ、この女が侵入できたのだ」
「それは……」
「もういい!」
友光はしどろもどろの息子を遮り、ベッドを下りて女へと向かっていく。
女はきょろきょろするのを止め、その場で仁王立ちになった。メイド服の大柄な彼女は、武子を連想させる。
「見てのとおり、今は取り込み中だ。君は配膳係のようだが、アルバイトかね」
「はい。今夜限りの臨時雇用です」
異様な場面に遭遇したにもかかわらず、彼女は落ち着いている。友光はスーツのポケットから財布を取り出すと、札束をちらつかせた。
「これは今夜のアルバイト料だ」
「はいっ?」
「欲しいなら、全部忘れなさい」
口止め料のつもりだ。どこまでも卑劣なやり方に、希美は吐き気すら覚える。
友光は声を荒げ、手を振り上げた。
「きゃああっ」
打ぶたれる刹那、希美は自分の傲慢を悔いた。
私は壮二に愛されている。ピンチになれば、必ず彼が助けてくれる。
でも彼はスーパーマンじゃない。もっと自分自身で考えて行動し、自衛するべきだったのに。
壮二がこのことを知れば、死ぬほど悲しみ、苦しむに違いない。
彼にそんな思いをさせてしまうことが、何よりも辛い。
「わあ、びっくり。こんなところに部屋がある!!」
突然、裏返った声が部屋に響いた。
どこかで聞いたような、でも知らないような、不思議な声音。
ただひとつ言えるのは、ここにいる4人以外の誰かが現われたということ。
「な、何だお前は?」
友光は狼狽し、振り上げた手を下ろす。彼の問いは、通路の出入り口に立ちはだかる"彼女"に向けられていた。
「すみませーん。おトイレの鏡がドアみたいに開いてたので、変だなあと思って中を覗いたんです。そしたら通路があるじゃないですか。どうなってるんだろうと思って中に入ったら、なぜかここに出ちゃって。もしかして、隠し通路ってやつですかあ? ていうか、何だかお取込み中だったみたい?」
ビン底眼鏡に三つ編みの、体格のいい配膳係の女だ。興味津々の様子で、部屋の中と、4人の男女を見回している。
(まさか……)
希美は呆然としながらも、突然、何もかもを理解することができた。
「お母様、もう大丈夫よ」
「……希美?」
友光と幸一の意識は、いきなり出現した『彼女』に集中している。その隙に希美は、麗子の手足を縛るベルトを素早く解いた。
心臓が早鐘を打つ。
「鏡を開けっ放しで来たのか、幸一」
「そんなはずはない。確かに閉めましたよ!」
「だったらなぜ、この女が侵入できたのだ」
「それは……」
「もういい!」
友光はしどろもどろの息子を遮り、ベッドを下りて女へと向かっていく。
女はきょろきょろするのを止め、その場で仁王立ちになった。メイド服の大柄な彼女は、武子を連想させる。
「見てのとおり、今は取り込み中だ。君は配膳係のようだが、アルバイトかね」
「はい。今夜限りの臨時雇用です」
異様な場面に遭遇したにもかかわらず、彼女は落ち着いている。友光はスーツのポケットから財布を取り出すと、札束をちらつかせた。
「これは今夜のアルバイト料だ」
「はいっ?」
「欲しいなら、全部忘れなさい」
口止め料のつもりだ。どこまでも卑劣なやり方に、希美は吐き気すら覚える。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる