夫のつとめ

藤谷 郁

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最高の用心棒

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 北城家に帰ると、武子が玄関で待っていた。

「お帰りなさいませ、旦那様。奥様もお嬢様も、お疲れ様でございました」

 ドアを開ける彼女の顔に、ホッとした表情が浮かぶ。三人が無事に帰るのを、ずっと待っていたのだ。

「リビングへどうぞ。お茶をお入れいたします」
「うむ。ありがとう、武子さん」

 希美は武子と目を合わせ、深く頷き合う。パーティーでの顛末を、彼女はすべてわかっている。


 三人はくつろいだ格好に着替え、リビングに集合した。武子がお茶を運んでくると、利希は彼女にもソファに座るよう促す。
 武子は遠慮がちに希美の隣に腰かけた。

「お前さんのおかげで二人を守ることができた。武子さん、本当にありがとう」

 利希はまず礼を言った。車の中で、彼は希美からことのあらましを聞いている。
 おそらく武子が事前に準備をし、配膳係として壮二をパーティーに潜り込ませたのだ。

「いいえ、旦那様」

 武子は顔を横に振る。そして、かえって済まなそうに三人を見回し、

「私は作戦を立てただけでございます。しかも奥様とお嬢様を危険に晒す作戦であったこと、お詫びいたします」

 頭を下げる武子に、皆驚いて顔を見合わせる。

「何を言うの。あなたのおかげで、私達はこうして無事に戻って来られたのよ」

 麗子が武子の手を取り、顔を上げさせた。

「そうだぞ、武子さん。それに、細野家ともきっぱり縁が切れたんだ。武子さんは、作戦が100パーセント成功すると確信して、あいつに任せたのだろう?」

 武子は目をうるうるとさせて利希を見返す。勤続28年の家政婦と北城家には、血よりも濃い信頼関係があった。

「はい。私の代わりに用心棒を任せられるのは、南村壮二さんだけ。そう信じたからこそ、作戦を実行したのでございます。しかし、もし万が一のことがあったらと、それを考えると私は……」

 武子は大柄な身体を震わせながら、また頭を下げた。
 万が一。
 希美も、それを考えると怖くなる。でも、そんなのは絶対にあり得ない。

「何言ってんの。武子さんの作戦は完璧だし、壮二が失敗するわけないじゃない。二人とも私にとって、最高の用心棒よ」
「お嬢様……」

 希美の言葉に、武子は泣き笑いの形相になる。

「それにしても壮二のやつ、まさか女の格好で来るとは思わなかった。武子さんの若い頃そっくりの、逞しいメイドだと思っていたら、あれがやつだったとは。ははは……」

 利希の笑い声につられ、皆笑った。壮ニのメイド姿を思い出すと、可笑しさがこみあげてくる。

「そういえば、壮二さんはまだ帰らないの?」

 麗子が訊くと、武子は腕時計を確かめた。

「そろそろ戻る頃でございます。作戦終了後、現場を離れる手はずになっておりますので……」

 タイミングよくインターホンの音が聞こえた。
 希美は反射的に立ち上がり、玄関にすっ飛んでいった。
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