夫のつとめ

藤谷 郁

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大炎上!?(その1)

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 壮二はなぜか押し黙り、窓へと視線を向けた。空に湧く夏雲よりも、遠くを見つめている。

(壮二?)

 グラットンの社長と名前が似ていることへのわだかまりは、もう消えたはずだ。
 でも、なぜか憂鬱そうに見える。

「壮二……どうかしたの?」
「えっ? あ、いえ」

 こちらを向くと首を左右に振り、小さく息をついた。

「いえ、すみません。グラットンといえば食品業界ではトップクラスの大企業です。実現したらすごいなと思って、気が遠くなったというか……」

 曖昧な口調だった。
 わだかまりは消えても、どうも壮二はグラットンの話題を好まない。希美はそれ以上追及せず、話題を変えた。

「このパンケーキ、ふっわふわで美味しい。もう一つ頼もうかしら」
「あ、それなら僕も付き合いますよ」

 壮二が微笑み、朗らかな雰囲気に戻る。希美がホッとした時、バッグから着信音が聞こえた。確かめると、仕事用のスマートフォンである。

「あら? 堀田課長だわ」

 営業部の課長から、しかも休日に電話が入るなんて珍しい。希美は壮二に断って席を立ち、店の外で応答した。

「はい、北城です」
『ノルテフーズが炎上してるぞ!』

 いきなり大声が聞こえて、思わずスマホを遠ざける。耳をこすってから、あらためて応答した。

「えっ、なんですって。炎上?」
『そう、炎上! SNSを中心にネットがえらいことになってるんだ。2時間前に異物混入の情報が投稿されて、それがものすごい勢いで拡散されてる』
「ちょ、ちょっと待ってください」

 希美はプライベート用のスマホを使ってSNSを開く。トレンドに【椀麺ワンメンに異物混入】と上がっていた。

「異物……って、えっ、一体なにが入って……」
『おそらく機械の洗浄用ブラシの毛だ。色は麺と同じ乳白色。長さは5センチほど』
「そんなこと、これまで一度だってなかったじゃない。生産ラインの機械は毎日分解洗浄して、チリ一つ残さないようチェックしてるはずよ」
『見逃しがあったってことだ』

 ぞっとして、身体が震える。椀麺シリーズは1日45万食を出荷する、ノルテフーズの主力商品だ。
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