夫のつとめ

藤谷 郁

文字の大きさ
135 / 179
ブランドイメージの回復

2

しおりを挟む
 なにより痛いのは、ブランドイメージの失墜だ。創業以来、地道に築き上げてきた信頼と実績が、もろくも崩れ去った。
 多額の負債はもとより、失われた信用が企業努力だけで贖えるのだろうか。一体どれほどの損失になるのか、希美には想像もつかない。
 いや、想像したくないというのが正直な気持ちだった。

「とにかく、これからのことは明日の会議次第だ。今夜はもう帰ろう」
「はい、社長」

 利希が杉山の車で帰宅するのを見送ったあと、希美は壮二と食事に出かけた。ここのところちゃんとした食事をとっておらず、壮二とゆっくり話もできなかった。

「ごめんね、壮二。少しだけ付き合ってほしいの」
「構いませんよ。僕も希美さんと、食事したかったから」

 会社近くの和食レストランに入った。こってりした肉料理より、焼き魚や煮物が食べたい気分である。

「これからどうなるのかしら。経験のない事態だから不安だわ」

 鮎の塩焼きをほぐしながら、希美が元気なくつぶやく。向かいに座る壮二は、腕組みをして何か考えている。

(会社もだけど、プライベートも先行き不透明ね……秋には結婚式だというのに、こんな状態では延期になるかもしれない。というより……)

 一つのトラブルをきっかけに会社が倒産したり、他の企業に買収されるケースがある。
 ノルテフーズも資金繰りがうまくいかなければ他人事ではない。

 そうなった時、壮二はどうするだろう。倒産した会社の一族に加わり、借金まみれの生活をすることになったら――

 壮二がふいに顔を上げ、希美に微笑みかけた。まるで、不安を取り除くかのように。

「最悪の事態は免れるでしょう。投稿者の要望どおり誠実な対応をすれば、ブランド力は必ず復活します」
「そ、そうかしら」
「はい。例えば僕の父なんかは、椀麺シリーズの大ファンだから、今回の件を嘆いてましたよ。『早く再出荷できるよう、お前も頑張れよ』なんて、昨夜も電話をもらいました」
「ほんとに?」

 壮二の身内が応援してくれる。希美は胸が温かくなった。

「うん、頑張らなきゃね。応援してくれるファンのためにも、ブランドイメージの復活を目指して努力する」
「そうです、希美さん。それが経営者の役目であり、責任です」

 いつになく厳しい口調に聞こえた。だけど彼の眼差しは優しく、希美をまるごと包んでいる。

「そばにいてね、壮二。私を見守っていて」
「もちろん。絶対に離れませんよ」

 どんな状況になろうと、壮二が婚約破棄することはない。
 希美は頬を染めつつ、確信するのだった。 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...