138 / 179
約束と条件
3
しおりを挟む
「グループの分社化にともない、ノルテフーズを子会社として迎え入れたいとのことです」
「グラットンが……子会社としてウチを?」
社長の確認に、甲斐がゆっくりと頷く。
「こちらが南村社長から北城社長への信書です」
甲斐が差し出す封筒を、利希は震える手で受け取る。
「取引したいというのは、こういうことだったのか」
業務提携して販路を広げましょうと南村社長は提案した。ただしそれは、ノルテフーズがグラットンの傘下に入った上でのこと。提携とは建前にすぎず、対等な取引をするつもりはなかったのだ。
「財務部に話を持ちこんだのは、グラットンの経営幹部です。その信書をまずは見ていただきたいと……」
「そんな一方的な話、聞けるわけがない。これは返してくれ」
手紙を突っ返そうとするが、甲斐は受け取らない。他の役員は黙っている。
「この前までのノルテフーズなら、私も突っ返したでしょう。しかし、今は状況が違います。従業員のことを考えれば簡単に断ることはできませんよ、社長」
「……え?」
甲斐はグラットンからあずかった『約束』を、皆に聞こえるように説明した。
「子会社となった場合も、ノルテフーズの社名はそのまま。経営方針はもちろん、社長、役員、その他人事に、グラットンは一切口出ししない。資金繰りのために工場や倉庫を手放す必要はないし、従業員の首切りも不要。ノルテフーズをグループに迎えるのは、資本力を提供し、よりよい環境下で仕事ができるよう応援するのが目的である」
信じられないという空気が、会議室に満ちた。財務部長は賄賂でももらったのかと囁く者もあった。
「そんな約束を、君は信じるのかね」
「……わかりません」
甲斐の返事に、質問した利希がびっくりする。
「わからんとはどういうことだ。金だけ出して口は出さない。そんなお人好しの会社が、この世にあると思っているのか」
「私も同じことを向こうに言いました。そうしたら……」
利希の手にある手紙を見やり、甲斐は最も肝心なことを伝える。
「約束は契約書に明記する。ただしそれは、南村社長が提示する条件を、こちらが呑めばの話だそうです」
「条件? どんな条件だ」
「ですから、私にはわかりません。南村社長自ら、手紙に記されたそうです」
「グラットンが……子会社としてウチを?」
社長の確認に、甲斐がゆっくりと頷く。
「こちらが南村社長から北城社長への信書です」
甲斐が差し出す封筒を、利希は震える手で受け取る。
「取引したいというのは、こういうことだったのか」
業務提携して販路を広げましょうと南村社長は提案した。ただしそれは、ノルテフーズがグラットンの傘下に入った上でのこと。提携とは建前にすぎず、対等な取引をするつもりはなかったのだ。
「財務部に話を持ちこんだのは、グラットンの経営幹部です。その信書をまずは見ていただきたいと……」
「そんな一方的な話、聞けるわけがない。これは返してくれ」
手紙を突っ返そうとするが、甲斐は受け取らない。他の役員は黙っている。
「この前までのノルテフーズなら、私も突っ返したでしょう。しかし、今は状況が違います。従業員のことを考えれば簡単に断ることはできませんよ、社長」
「……え?」
甲斐はグラットンからあずかった『約束』を、皆に聞こえるように説明した。
「子会社となった場合も、ノルテフーズの社名はそのまま。経営方針はもちろん、社長、役員、その他人事に、グラットンは一切口出ししない。資金繰りのために工場や倉庫を手放す必要はないし、従業員の首切りも不要。ノルテフーズをグループに迎えるのは、資本力を提供し、よりよい環境下で仕事ができるよう応援するのが目的である」
信じられないという空気が、会議室に満ちた。財務部長は賄賂でももらったのかと囁く者もあった。
「そんな約束を、君は信じるのかね」
「……わかりません」
甲斐の返事に、質問した利希がびっくりする。
「わからんとはどういうことだ。金だけ出して口は出さない。そんなお人好しの会社が、この世にあると思っているのか」
「私も同じことを向こうに言いました。そうしたら……」
利希の手にある手紙を見やり、甲斐は最も肝心なことを伝える。
「約束は契約書に明記する。ただしそれは、南村社長が提示する条件を、こちらが呑めばの話だそうです」
「条件? どんな条件だ」
「ですから、私にはわかりません。南村社長自ら、手紙に記されたそうです」
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる