夫のつとめ

藤谷 郁

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約束と条件

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「グループの分社化にともない、ノルテフーズを子会社として迎え入れたいとのことです」
「グラットンが……子会社としてウチを?」

 社長の確認に、甲斐がゆっくりと頷く。

「こちらが南村社長から北城社長への信書です」

 甲斐が差し出す封筒を、利希は震える手で受け取る。
 
「取引したいというのは、こういうことだったのか」

 業務提携して販路を広げましょうと南村社長は提案した。ただしそれは、ノルテフーズがグラットンの傘下に入った上でのこと。提携とは建前にすぎず、対等な取引をするつもりはなかったのだ。

「財務部に話を持ちこんだのは、グラットンの経営幹部です。その信書をまずは見ていただきたいと……」
「そんな一方的な話、聞けるわけがない。これは返してくれ」

 手紙を突っ返そうとするが、甲斐は受け取らない。他の役員は黙っている。

「この前までのノルテフーズなら、私も突っ返したでしょう。しかし、今は状況が違います。従業員のことを考えれば簡単に断ることはできませんよ、社長」
「……え?」

 甲斐はグラットンからあずかった『約束』を、皆に聞こえるように説明した。

「子会社となった場合も、ノルテフーズの社名はそのまま。経営方針はもちろん、社長、役員、その他人事に、グラットンは一切口出ししない。資金繰りのために工場や倉庫を手放す必要はないし、従業員の首切りも不要。ノルテフーズをグループに迎えるのは、資本力を提供し、よりよい環境下で仕事ができるよう応援するのが目的である」

 信じられないという空気が、会議室に満ちた。財務部長は賄賂でももらったのかと囁く者もあった。

「そんな約束を、君は信じるのかね」
「……わかりません」

 甲斐の返事に、質問した利希がびっくりする。

「わからんとはどういうことだ。金だけ出して口は出さない。そんなお人好しの会社が、この世にあると思っているのか」
「私も同じことを向こうに言いました。そうしたら……」

 利希の手にある手紙を見やり、甲斐は最も肝心なことを伝える。

「約束は契約書に明記する。ただしそれは、南村社長が提示する条件を、こちらが呑めばの話だそうです」
「条件? どんな条件だ」
「ですから、私にはわかりません。南村社長自ら、手紙に記されたそうです」
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