夫のつとめ

藤谷 郁

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先に帰った壮二

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 利希の回復は予想より早く、3日間の入院で済んだ。翌週には職務に復帰し、まず最初にグラットンの南村社長に手紙の返事を書いた。
 もちろん、買収と政略結婚についての返答である。

「答えはノーだ。ノルテフーズは自力で苦境を脱すると、君からしっかりと伝えてくれ」 
「承知いたしました」

 手紙は財務部長に届けさせた。さすがの甲斐も、契約条件が政略結婚だと聞いて、グラットンのやり方に疑問を感じたようだ。
 創業家と婚姻関係を結ぶなど、まるで乗っ取りである。



 その翌日、経営会議があらためて開かれ、利希の手紙に対するグラットンの反応も甲斐から発表された。

「南村社長は我が社の返答を『保留』という形で受け取りました」
「つまり、向こうはノルテフーズを子会社にするのを諦めていないってことか」

 役員の質問に、甲斐が頷く。

「しかし北城社長の決意は固く、我々はグラットンの資本力をあてにせず、この経営危機を乗り切る方針をとります」

 そのための経営会議だ。
 正面に座る社長の堂々とした態度を見て、役員らは納得顔になった。

 希美は複雑な心境だった。
 もしグラットンの資本力を頼るなら、この程度の危機などすぐに脱し、しかも事業拡大のチャンスになる。
 だけど、ノルテフーズにも企業としてのプライドがあり、積み上げてきた実績を他力本願で維持するわけにいかないのだ。

(ていうか、あのハゲ親父と結婚するなんて絶対に嫌! 人の弱みにつけこんで、まったく……あんな卑怯者とは思わなかったわ)

 壮二の父親が、南村社長のことを『曲がったことが大嫌い』『人望がある』と評価していたが、たぶんそれは昔の話で、大企業のトップになって人格が変わったのかもしれない。


 会議は長引いたが、なんとか意見がまとまる。早急に臨時株主総会を開き、オーナーの賛同を得たのち、次のような対策を実行することとなった。

 再発防止のための設備投資に予算を割く。そのために、メインバンクと追加融資について再度相談する。
 不採算部門の切り捨てはやむなし。
 人件費削減については、整理解雇ではなく、希望退職者を募る。
 などなど……



 会議のあと、秘書課のデスクで議事録を眺めながら希美はため息をつく。
 希望退職者を募るといっても、結局はリストラだ。
 従業員の生活を守れない経営者――ノルテフーズの創業者が聞いたら、どんなに落胆するだろう。
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