156 / 179
アイデア料
2
しおりを挟む
(なんとまあ……)
壮太はいろんな汗をかきながら、あっという間にどんぶり一杯平らげてしまった。
「ちょっと、それを見せてくれ」
「いいよ」
調味料の入った瓶を壮太はじっと見つめ、味噌のように練られたそれを、スプーンを借りて少しなめてみる。
これはいける――
本格的かつ、食べやすい。ラーメンだけでなく、あらゆる料理に応用可能だ。日本の食卓に、エスニックの味を再現できる。
グラットンの主力商品は、調理済みの惣菜食品だ。忙しい日もささっと食卓に並べることができるようにというのがコンセプトである。
だけど、調味料はそれほど重視しなかった。結局、消費者自身が料理しなければならないからだ。
しかし今、壮二はほんの数分で、あんなにも美味しいラーメンを作った。簡単なレシピなら、下手な惣菜よりも調味料でおかずを作ったほうが、消費者は満足できるだろう。
要は、旨い調味料である。
しかも、香辛料を工夫して作ったこいつは絶対にウケる。
「壮二、これを売ってくれないか!」
突然の申し出に、壮二がきょとんとした。
「売るって、これを壮太さんに?」
何を言っているのか、理解できない顔だ。
「別にいいけど、お金なんていらないよ。趣味で作ったやつだから」
「そうじゃなくて、アイデアとしてグラットンに売ってくれってことだ。香辛料の種類とか、分量とか、教えてほしい。これをウチで商品化するために」
「ええっ?」
壮二はようやく話が飲み込めたようだ。
「これを壮太さんの会社で、量産するってこと?」
「そうだ。エスニックの調味料をグラットンの新機軸にする!」
その後、壮二の両親も交えてアイデア料について話したが、彼らはあまり良い顔をしなかった。長い付き合いなのに、金のやり取りなど水臭いというのだ。
「いやしかし、ただというわけにはいかない。アイデアっていうのは、商売のもとだ。ちょっとしたひらめきが、何億もの利益を生んだりする」
南村一家は笑っている。中学生の息子が趣味で作った調味料に、そんな価値があるなど、考えもしないようだ。
「壮太。お前、会社がよほどうまくいってないんだな。どうかしてるぞ」
仙一が真顔で心配するので、壮太はこれ以上何を言っても無駄だとさとった。お人好しの彼らは、絶対にアイデア料など受け取らないだろう。
「わかった。とりあえず、タダでアイデアを拝借しよう。だが、利益が出たらそういうわけにはいかない。こちらからそれなりのお礼をさせてもらうぞ」
皆、面白そうにうなずく。こんなもの売れるわけがないと思っているのだ。
「壮二。お礼は何がいい。金のことはわからんだろうから、欲しいものを言ってみろ」
「そうだなあ」
壮二はしばらく考えていたが、何か思い付いたらしくぽんと手を叩いた。
「だったら、僕が大学を出たあと、壮太さんの会社に入れてよ」
「へ?」
想定外の答えだった。壮二のことだから、調理器具とか、珍しい食材とか希望すると考えていた。
「俺の会社に就職するっていうのか。え……いや、しかし」
壮太がちらりと窺うと、南村夫妻は顔を見合わせぷっと噴き出した。
「うちは構わんよ。壮二はもともと、食堂の経営には興味がないらしい」
「いいじゃない。近頃は就職も大変だし、壮太さんの会社に入れてもらえるならありがたいわ」
息子が家業を継がず、よその会社に就職すると言うのに、呑気な両親だ。
「まあ、俺は別にいいけど……本気なのか、壮二」
壮二は「うん」と返事する。
「商品開発室とか、そういう部署があるんでしょ? メニュー作りが仕事になるなんて、楽しそうじゃん」
この子は少し変わってるな。
壮太は不思議な思いにとらわれながら、彼の要望を受け入れた。
「よし。調味料のアイデアの代わりに、将来俺の会社に入れると約束する。本当にそれでいいんだな?」
念を押すと、壮二は真剣な表情で小指を出した。
「なんだ?」
「指きりだよ」
変わってはいるが、まだまだ子ども。
壮太は微笑み、しかし壮二に合わせて真剣な顔になると、指きりげんまんした。
壮太はいろんな汗をかきながら、あっという間にどんぶり一杯平らげてしまった。
「ちょっと、それを見せてくれ」
「いいよ」
調味料の入った瓶を壮太はじっと見つめ、味噌のように練られたそれを、スプーンを借りて少しなめてみる。
これはいける――
本格的かつ、食べやすい。ラーメンだけでなく、あらゆる料理に応用可能だ。日本の食卓に、エスニックの味を再現できる。
グラットンの主力商品は、調理済みの惣菜食品だ。忙しい日もささっと食卓に並べることができるようにというのがコンセプトである。
だけど、調味料はそれほど重視しなかった。結局、消費者自身が料理しなければならないからだ。
しかし今、壮二はほんの数分で、あんなにも美味しいラーメンを作った。簡単なレシピなら、下手な惣菜よりも調味料でおかずを作ったほうが、消費者は満足できるだろう。
要は、旨い調味料である。
しかも、香辛料を工夫して作ったこいつは絶対にウケる。
「壮二、これを売ってくれないか!」
突然の申し出に、壮二がきょとんとした。
「売るって、これを壮太さんに?」
何を言っているのか、理解できない顔だ。
「別にいいけど、お金なんていらないよ。趣味で作ったやつだから」
「そうじゃなくて、アイデアとしてグラットンに売ってくれってことだ。香辛料の種類とか、分量とか、教えてほしい。これをウチで商品化するために」
「ええっ?」
壮二はようやく話が飲み込めたようだ。
「これを壮太さんの会社で、量産するってこと?」
「そうだ。エスニックの調味料をグラットンの新機軸にする!」
その後、壮二の両親も交えてアイデア料について話したが、彼らはあまり良い顔をしなかった。長い付き合いなのに、金のやり取りなど水臭いというのだ。
「いやしかし、ただというわけにはいかない。アイデアっていうのは、商売のもとだ。ちょっとしたひらめきが、何億もの利益を生んだりする」
南村一家は笑っている。中学生の息子が趣味で作った調味料に、そんな価値があるなど、考えもしないようだ。
「壮太。お前、会社がよほどうまくいってないんだな。どうかしてるぞ」
仙一が真顔で心配するので、壮太はこれ以上何を言っても無駄だとさとった。お人好しの彼らは、絶対にアイデア料など受け取らないだろう。
「わかった。とりあえず、タダでアイデアを拝借しよう。だが、利益が出たらそういうわけにはいかない。こちらからそれなりのお礼をさせてもらうぞ」
皆、面白そうにうなずく。こんなもの売れるわけがないと思っているのだ。
「壮二。お礼は何がいい。金のことはわからんだろうから、欲しいものを言ってみろ」
「そうだなあ」
壮二はしばらく考えていたが、何か思い付いたらしくぽんと手を叩いた。
「だったら、僕が大学を出たあと、壮太さんの会社に入れてよ」
「へ?」
想定外の答えだった。壮二のことだから、調理器具とか、珍しい食材とか希望すると考えていた。
「俺の会社に就職するっていうのか。え……いや、しかし」
壮太がちらりと窺うと、南村夫妻は顔を見合わせぷっと噴き出した。
「うちは構わんよ。壮二はもともと、食堂の経営には興味がないらしい」
「いいじゃない。近頃は就職も大変だし、壮太さんの会社に入れてもらえるならありがたいわ」
息子が家業を継がず、よその会社に就職すると言うのに、呑気な両親だ。
「まあ、俺は別にいいけど……本気なのか、壮二」
壮二は「うん」と返事する。
「商品開発室とか、そういう部署があるんでしょ? メニュー作りが仕事になるなんて、楽しそうじゃん」
この子は少し変わってるな。
壮太は不思議な思いにとらわれながら、彼の要望を受け入れた。
「よし。調味料のアイデアの代わりに、将来俺の会社に入れると約束する。本当にそれでいいんだな?」
念を押すと、壮二は真剣な表情で小指を出した。
「なんだ?」
「指きりだよ」
変わってはいるが、まだまだ子ども。
壮太は微笑み、しかし壮二に合わせて真剣な顔になると、指きりげんまんした。
1
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる