夫のつとめ

藤谷 郁

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男同士の約束

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「壮二、大学入学おめでとう」

 桜咲く春――
 壮太はお祝いを手に、南村家を訪れた。いまや大会社の社長となった彼は、高級スーツの上に威厳というオーラを纏っている。

 しかし南村家では、ただのおじさんに戻り、昔と同じように会話を楽しむのだった。

「忙しいだろうに、わざわざありがとうな、壮太」

 仙一が礼を言うと、壮太は豪快に笑う。

「お前さんたちは身内も同然、何てことないさ。しかし、少し見ない間に、ずいぶん大人になったなあ」

 壮太は両親の横に座る壮二に目を移した。

「背ばかり高くなって、中身はあまり変わってないわ。相変わらず料理が好きで、お休みの日は台所にこもってるのよ」

 母親が困ったように言うが、壮二はどこ吹く風。マイペースなところは、確かに相変わらずだ。

「わっはは……俺としては嬉しいね。何と言っても、4年後にはグラットンの戦力になる男だからな」

 壮太は彼との約束を忘れていない。それどころか、商品開発部のリーダーとして迎え入れるつもりだった。

「しかし、F大学の経済学部か。経営には関心がないと言ってたのにな」
「壮太さんの影響だよ」
「俺の?」

 壮二は照れくさそうにした。

「エスニックシリーズがヒットした時、僕が趣味で作った調味料が、これほど多くの人に喜んでもらえるんだって感動したんだ。商売に興味が湧いたのはその頃かな。レシピを開発したら、それを世界中の人に味わってもらいたい。それには、経済のことを学ぶ必要がある」

 彼の言葉に、壮太は目をみはる。

「ということは、将来は経営者になるつもりか」
「うん。どうせならね」

 どこか子どもっぽい笑顔だが、人としての成長が感じられる。壮太は感心するとともに、複雑な気持ちを抱いた。

「しかし壮二、お前はグラットンの社員になるんだ。まさか、いずれ独立するつもりじゃないだろうな」

 もしそうなれば、戦力どころか商売敵だ。壮太は経営者として、アイデアの宝庫を手放すわけにはいかない。

「うーん。そこまでは、まだわかんないけど」

 壮太は焦った。こいつは自立心旺盛な男だ。放っておけば、自分の会社を作ってしまうだろう。今、しっかりつなぎとめておかなければ――

「わかった。それなら、俺の会社を継げばいい。将来はお前がグラットンの社長になって、お前が開発したレシピを世界中に売り出せばいいのさ」
「えっ、僕が壮太さんの会社を?」

 壮二はもちろん、両親もびっくりする。
 しかし壮太は本気だった。

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