166 / 198
クレイジー
3
しおりを挟む
「あれえ、どうしたのお姉さん、そんなに見つめて」
「……!」
剛田を凝視する私に、ニット帽が声をかけた。
「兄貴があまりにもイケメンでビックリしちゃった?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「隠さなくていいって。兄貴にかかれば、どんな女だって虜になっちまうんだ。無理もないよなぁ、男の俺だって惚れ惚れしちまうもん」
ニット帽が勝手に解釈して愉快そうに笑う。しかし私はそれどころじゃない。
誘拐の主犯が誰なのか、明らかになったのだ。
(綾華だ。あの子が剛田蓮を使って、私を誘拐した!)
お金目当てとか、そんな単純な理由ではない。もし想像が当たっているなら、何をされるか……
どうしよう。
どうすればいい?
「奈々子さん……だっけ。あんた、もしかして」
「えっ?」
へらへら笑っているニット帽を無視して、剛田が私を見つめる。
心の奥底まで覗くような、鋭い視線。
「俺が誰なのか知ってる。そうだろ?」
「……」
剛田はニット帽みたいに単純ではなかった。どうやっても誤魔化せないし、逃げられない。
私は観念し、開き直った。
「知っています。あなたのことも、あなた方のボスが誰なのかも。たった今、分かりました」
「へえ!」
剛田がコーヒーを飲み干し、空缶を後ろに放り投げた。ニット帽の足元で跳ね返り、派手な音を立てて転がる。
「じゃあ言ってみな。俺とボスの名前を」
私の前にしゃがんで、楽しげに質問する。サディスティックな笑顔に戦慄するが、私は負けない。
負けてはいけないと、自分を奮い立たせた。
「あなたの名前は剛田蓮。そしてボスは、西野綾華、ですね」
「……大正解」
剛田は笑うのをやめた。
私を睨みながら、何か考えている。
「綾華の周辺を調べたのか。でなきゃ、俺に辿り着けないもんな。なぜ調べた」
「……」
「まあ、大体察しがつくけどさ」
黙り込む私の代わりに、剛田が自分で答えた。
「あんた、横浜のホテルで綾華に絡まれて、逃げ出したんだろ? あいつにまた虐められると思って、予防線を張ったわけだ。執念深いいじめっ子に気をつけろとか、誰かに忠告されて」
「え……」
私は動揺した。
なぜそこまで推測できるのかと。
だが、考えるまでもなかった。
「綾華から、何もかも聞いてるんですね。中学時代のことや、友達について。あの子が私を逆恨みしてることも」
「ああ、全部ね。うんざりするほど聞かされたよ。ただしあいつは、逆恨みとは思っちゃいない。なにしろあんたは、綾華に逆らった上に下僕二人を反乱させた張本人で、悪者なんだから」
「な……!」
勝手な言い分にカッとなる。
下僕というのは、莉央と夏樹のことだ。
「あの子は、本当に相変わらずですね。いまだにそんな風に言ってるんだ」
綾華の性根は分かっている。あの頃となんら変わっていないと、横浜で会った時に認識した。
でも、こうしてあらためて聞かされると、怒りに震える。
「そうです。私は、綾華に何かされるのではと恐れて、あの子の周辺を調べることで予防線を張りました。そして、その気配がないと結論が出て、安心したばかりなんです。なのに、やっぱり逆恨みして、誘拐なんて……一体、あの子は私をどうするつもりなんです? お金が目的じゃないですよね?」
感情的になりそうなのを堪えて、剛田に質問する。
「私を苦しめたいだけですよね。それなら、織人さんを巻き込まなくても……」
「いやいや、お姉さんが由比織人と結婚したからでしょ?」
いつの間にか、剛田の隣にニット帽が来ていた。自撮り棒にセットしたスマホをこちらに向けて、ニヤニヤと笑っている。
「おい、撮影はあとだ」
「何言ってるんスか。これこそが撮れ高ッスよ!」
ニット帽が、剛田と私のやり取りを録画していた。ふざけた行為に憤る私だが、スマホを叩き落とすこともできない。柱に縛りつけられているのだ。
「……!」
剛田を凝視する私に、ニット帽が声をかけた。
「兄貴があまりにもイケメンでビックリしちゃった?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「隠さなくていいって。兄貴にかかれば、どんな女だって虜になっちまうんだ。無理もないよなぁ、男の俺だって惚れ惚れしちまうもん」
ニット帽が勝手に解釈して愉快そうに笑う。しかし私はそれどころじゃない。
誘拐の主犯が誰なのか、明らかになったのだ。
(綾華だ。あの子が剛田蓮を使って、私を誘拐した!)
お金目当てとか、そんな単純な理由ではない。もし想像が当たっているなら、何をされるか……
どうしよう。
どうすればいい?
「奈々子さん……だっけ。あんた、もしかして」
「えっ?」
へらへら笑っているニット帽を無視して、剛田が私を見つめる。
心の奥底まで覗くような、鋭い視線。
「俺が誰なのか知ってる。そうだろ?」
「……」
剛田はニット帽みたいに単純ではなかった。どうやっても誤魔化せないし、逃げられない。
私は観念し、開き直った。
「知っています。あなたのことも、あなた方のボスが誰なのかも。たった今、分かりました」
「へえ!」
剛田がコーヒーを飲み干し、空缶を後ろに放り投げた。ニット帽の足元で跳ね返り、派手な音を立てて転がる。
「じゃあ言ってみな。俺とボスの名前を」
私の前にしゃがんで、楽しげに質問する。サディスティックな笑顔に戦慄するが、私は負けない。
負けてはいけないと、自分を奮い立たせた。
「あなたの名前は剛田蓮。そしてボスは、西野綾華、ですね」
「……大正解」
剛田は笑うのをやめた。
私を睨みながら、何か考えている。
「綾華の周辺を調べたのか。でなきゃ、俺に辿り着けないもんな。なぜ調べた」
「……」
「まあ、大体察しがつくけどさ」
黙り込む私の代わりに、剛田が自分で答えた。
「あんた、横浜のホテルで綾華に絡まれて、逃げ出したんだろ? あいつにまた虐められると思って、予防線を張ったわけだ。執念深いいじめっ子に気をつけろとか、誰かに忠告されて」
「え……」
私は動揺した。
なぜそこまで推測できるのかと。
だが、考えるまでもなかった。
「綾華から、何もかも聞いてるんですね。中学時代のことや、友達について。あの子が私を逆恨みしてることも」
「ああ、全部ね。うんざりするほど聞かされたよ。ただしあいつは、逆恨みとは思っちゃいない。なにしろあんたは、綾華に逆らった上に下僕二人を反乱させた張本人で、悪者なんだから」
「な……!」
勝手な言い分にカッとなる。
下僕というのは、莉央と夏樹のことだ。
「あの子は、本当に相変わらずですね。いまだにそんな風に言ってるんだ」
綾華の性根は分かっている。あの頃となんら変わっていないと、横浜で会った時に認識した。
でも、こうしてあらためて聞かされると、怒りに震える。
「そうです。私は、綾華に何かされるのではと恐れて、あの子の周辺を調べることで予防線を張りました。そして、その気配がないと結論が出て、安心したばかりなんです。なのに、やっぱり逆恨みして、誘拐なんて……一体、あの子は私をどうするつもりなんです? お金が目的じゃないですよね?」
感情的になりそうなのを堪えて、剛田に質問する。
「私を苦しめたいだけですよね。それなら、織人さんを巻き込まなくても……」
「いやいや、お姉さんが由比織人と結婚したからでしょ?」
いつの間にか、剛田の隣にニット帽が来ていた。自撮り棒にセットしたスマホをこちらに向けて、ニヤニヤと笑っている。
「おい、撮影はあとだ」
「何言ってるんスか。これこそが撮れ高ッスよ!」
ニット帽が、剛田と私のやり取りを録画していた。ふざけた行為に憤る私だが、スマホを叩き落とすこともできない。柱に縛りつけられているのだ。
15
あなたにおすすめの小説
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】
てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。
変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない!
恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい??
You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。
↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ!
※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。
網代さんを怒らせたい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」
彼がなにを言っているのかわからなかった。
たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。
しかし彼曰く、これは練習なのらしい。
それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。
それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。
それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。
和倉千代子(わくらちよこ) 23
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
デザイナー
黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟
ただし、そう呼ぶのは網代のみ
なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている
仕事も頑張る努力家
×
網代立生(あじろたつき) 28
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
営業兼事務
背が高く、一見優しげ
しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く
人の好き嫌いが激しい
常識の通じないヤツが大嫌い
恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?
期待外れな吉田さん、自由人な前田くん
松丹子
恋愛
女子らしい容姿とざっくばらんな性格。そのギャップのおかげで、異性から毎回期待外れと言われる吉田さんと、何を考えているのか分からない同期の前田くんのお話。
***
「吉田さん、独り言うるさい」
「ああ!?なんだって、前田の癖に!前田の癖に!!」
「いや、前田の癖にとか訳わかんないから。俺は俺だし」
「知っとるわそんなん!異議とか生意気!前田の癖にっ!!」
「……」
「うあ!ため息つくとか!何なの!何なの前田!何様俺様前田様かよ!!」
***
ヒロインの独白がうるさめです。比較的コミカル&ライトなノリです。
関連作品(主役)
『神崎くんは残念なイケメン』(香子)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(マサト)
*前著を読んでいなくても問題ありませんが、こちらの方が後日談になるため、前著のネタバレを含みます。また、関連作品をご覧になっていない場合、ややキャラクターが多く感じられるかもしれませんがご了承ください。
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
傷痕~想い出に変わるまで~
櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。
私たちは確かに愛し合っていたはずなのに
いつの頃からか
視線の先にあるものが違い始めた。
だからさよなら。
私の愛した人。
今もまだ私は
あなたと過ごした幸せだった日々と
あなたを傷付け裏切られた日の
悲しみの狭間でさまよっている。
篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。
勝山 光との
5年間の結婚生活に終止符を打って5年。
同じくバツイチ独身の同期
門倉 凌平 32歳。
3年間の結婚生活に終止符を打って3年。
なぜ離婚したのか。
あの時どうすれば離婚を回避できたのか。
『禊』と称して
後悔と反省を繰り返す二人に
本当の幸せは訪れるのか?
~その傷痕が癒える頃には
すべてが想い出に変わっているだろう~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる