一億円の花嫁

藤谷 郁

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自業自得

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「だが、この仕事が終わったらどうするかな。自由になったとたん警察に駆け込んで、なにもかも喋っちまうかもしれないぞ」
「心配いらないわ。その前にするもの」

 剛田とニット帽が真顔になる。
 冗談っぽい口調でも、綾華の言葉は毒に満ちていた。

「本気かよ」
「だから言ってるでしょ? もうどうでもいいって」
「……ふうん。ま、俺には関係ないし、それならそれで、こっちも好都合だ。好きにしろよ」

 剛田は追及しなかった。
 彼の言い方も、態度も、まるで他人事のよう。
 だがそれもそのはず。
 特務室の調査どおり、二人は歪な愛人関係であり、剛田にとって綾華はただの金蔓。
 そこには一片の情もなく、また、綾華も割り切っているのが見てとれた。

 恐怖を覚える。
 ここへきて初めて、剛田の言葉を飲み込めた気がした。

 ーー今の綾華は、いわば無敵の人。失うものがない状況だからな。
 ーー警察に捕まろうが、死刑になろうが、どうだっていい。大月奈々子に復讐する、それだけが生きがいなんだよ。

 喪に服すような綾華の出で立ち。投げやりな言葉。顔色の悪さと、やつれた様子。
 それらが何を表すのか、考えてみる。失うものがないとは、どんな状況なのか。

 私も、処分されるかもしれない。

「よし、そろそろ始めようぜ。遅くとも夜明け前にはカタを付けたいからな」
「いよいよッスね!」

 剛田の指示で、ニット帽がいそいそと準備を始める。ディスプレイに繋げたパソコンを操作し、カメラを調整した。
 
「いいか、奈々子さん」

 剛田が私の前にしゃがんだ。

「これから由比織人と交渉する。あんたは余計なことを言わず、黙っていてくれよ。金を手に入れるまでは、大事に扱ってやるからさ」
「……そのあとは?」

 無意味な問いだと分かっているが、訊いてみた。

「さあね、綾華とあんたの問題だ。ただでは済まないだろうが、俺たちはとんずらするし、そんなのどうでもいい。せいぜい旦那に守ってもらうんだな」

 剛田は嘲笑った。
 無駄な足掻きはやめろと、馬鹿にしている。
 織人さんを馬鹿にしている。
 女を利用して、卑怯なやり方でお金を奪おうとする悪人のくせに。
 許せない!

「も、もちろん守ってもらいます。織人さんは、めちゃくちゃ強いんだから!」
「……は?」

 剛田がきょとんとして、後ろで聞いていたニット帽がげらげらと笑った。

「めちゃくちゃ強い? あの、女みてーな顔した、ヒョロっとした旦那が? ワハハ、ヒイーッ、わ、笑わせないでよお姉さん!」
「こらこら、笑ってやるなよ。もやしみたいなお坊ちゃんでも、奈々子さんにとっては勇敢な王子様なんだから」

 ヒョロっとした? もやしみたい?
 あまりの言われように、今度は私がきょとんとする。
 世間から見た由比織人は、実際の彼とかけ離れたイメージなのだ。

(そういえば、花ちゃんも最初はそんな風に言ってたような……)

 悔しいけれど、仕方ない。馬鹿にされても、強さを証明する術がないのだから。
 それに、そもそも『キング』は会社のトップシークレットであり、本当の姿はバレてはいけない。
 私は唇を噛み、いつまでも笑っているニット帽を睨むほかなかった。

「冗談はさておき、始めるぞ」
「はいはーい。準備完了、Wi-Fiもおっけーでえす」

 剛田は椅子に座り、ワイヤレスマイクをつけた。

「まずは電話ね。お姉さん、旦那の番号はこれでOK?」

 私のスマホから盗んだのだろうか。織人さん個人の携帯番号をニット帽が示した。

「……」
「早くしないと凍死しちゃうよお?」

 もう腹を括るしかない。
 織人さん、迷惑をかけてごめんなさい。心で謝りながら、うなずいた。

「じゃあ発信しますよ~」
「ちょっと待って」

 キーを押そうとするニット帽を、綾華が止めた。
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