171 / 198
自業自得
4
しおりを挟む
「すっかり信じて、銀の鈴で待ってたんでしょ? ロマンス小説を手に、バカみたいに突っ立ってるあんたをエミがずっと見張ってたのよ。たっぷり待ちぼうけさせて、とぼとぼ帰るところを掴まえろって指示したのは私。あとは知ってのとおり、作戦は大成功。こんなにもスムーズにことが運ぶなんて、お人好しなあんたならではよねえ。バチが当たったって言うかあ……自業自得ってやつ?」
何も言い返せない。
だけど綾華の言い分を認めたんじゃない。負の感情が込み上げて、喉が詰まっている。
「大体さあ、莉央があんたに連絡してくるとか有り得ないでしょ。だってあの子、あんたを犠牲にして自分を守った裏切り者よ? どのツラ下げて会いに来るって言うのさ」
綾華の魂胆を理解した。
この女は、私にとって莉央がどれだけ大切な友達だったのか、分かっているからこそ、こんな最低の手段を思いつくのだ。
「でもまさか、マジで信じるとはね。莉央から電話があるって、本気で思ってんの? てゆーかさ、声も喋り方も中学生のままなんて、おかしいと思わないわけ?」
「……」
声も喋り方も、中学生のままーー
あれっ? と思った。
綾華の言葉はどれもこれも腹が立つけれど、今の指摘は、何か引っ掛かる。
確かに、普通なら違和感を覚えなければならない。莉央が中学時代と変わらぬテンションで、突然、電話をかけてきたこと。
(……違う、突然じゃない)
「何よ、黙っちゃって。正論に返す言葉がないって感じ?」
綾華の挑発には乗らない。
私は考えている。なぜニセの電話を信じてしまったのか。
ーー昨夜、あなたに電話がかかってきたのよ。えっと……楠木莉央さんって方から。
ーーご結婚されて、苗字が変わったみたいね。今更なんのご用ですかと訊いたら、また電話しますと言って、切ってしまったわ。
私は思い出した。
ニセの電話の前に、『莉央』から連絡があったことを。
だからこそ、信じてしまったのだ。
(こういうの、聞いたことがある。例えば、クレジットカードで買い物した直後、偶然そのカード会社を名乗る詐欺メールが来て、騙されてしまうといった現象)
母が伝えてくれた。
莉央が電話をくれたのは昨夜。携帯ではなく固定電話で、伊豆の市外局番だった。
しかも留守電ではなく母が対応したのだ。声も、もっと落ち着いていたと言ったではないか。
母と話したのは、本物の莉央だ。
「やだ、もう泣き止んじゃった。つまんない」
綾華が口を尖らせ、だけどすぐ笑顔になり、元気に立ち上がった。私をやり込めて、とりあえず満足したのだろう。
大切なことに私が気づいたとも知らずに。
「もう気が済んだか?」
剛田が腕時計を見ながら、綾華に声をかけた。
「一応ね。でもまだこれからが本番よ。旦那を脅して、苦しめて、もっともっと泣かせてやるんだから!」
私を見下ろす目が残忍に光る。
だけど私は怯えない。
気を取り直すことができたのだから。
(私は一人じゃない。莉央がいる、夏樹がいる、そして……)
「ようやく楽しくなってきた! いいわ、由比織人に電話してよ」
「了解。サル、やってくれ」
「わっかりました~!」
綾華になんか負けない。
もう、昔の私ではない。
私を変えてくれたすごい人が付いているのだから。
絶対無敵の、あの人が!
自業自得を思い知るのは、綾華自身だ。
発信音が鳴り響く中、まっすぐに顔を上げた。
何も言い返せない。
だけど綾華の言い分を認めたんじゃない。負の感情が込み上げて、喉が詰まっている。
「大体さあ、莉央があんたに連絡してくるとか有り得ないでしょ。だってあの子、あんたを犠牲にして自分を守った裏切り者よ? どのツラ下げて会いに来るって言うのさ」
綾華の魂胆を理解した。
この女は、私にとって莉央がどれだけ大切な友達だったのか、分かっているからこそ、こんな最低の手段を思いつくのだ。
「でもまさか、マジで信じるとはね。莉央から電話があるって、本気で思ってんの? てゆーかさ、声も喋り方も中学生のままなんて、おかしいと思わないわけ?」
「……」
声も喋り方も、中学生のままーー
あれっ? と思った。
綾華の言葉はどれもこれも腹が立つけれど、今の指摘は、何か引っ掛かる。
確かに、普通なら違和感を覚えなければならない。莉央が中学時代と変わらぬテンションで、突然、電話をかけてきたこと。
(……違う、突然じゃない)
「何よ、黙っちゃって。正論に返す言葉がないって感じ?」
綾華の挑発には乗らない。
私は考えている。なぜニセの電話を信じてしまったのか。
ーー昨夜、あなたに電話がかかってきたのよ。えっと……楠木莉央さんって方から。
ーーご結婚されて、苗字が変わったみたいね。今更なんのご用ですかと訊いたら、また電話しますと言って、切ってしまったわ。
私は思い出した。
ニセの電話の前に、『莉央』から連絡があったことを。
だからこそ、信じてしまったのだ。
(こういうの、聞いたことがある。例えば、クレジットカードで買い物した直後、偶然そのカード会社を名乗る詐欺メールが来て、騙されてしまうといった現象)
母が伝えてくれた。
莉央が電話をくれたのは昨夜。携帯ではなく固定電話で、伊豆の市外局番だった。
しかも留守電ではなく母が対応したのだ。声も、もっと落ち着いていたと言ったではないか。
母と話したのは、本物の莉央だ。
「やだ、もう泣き止んじゃった。つまんない」
綾華が口を尖らせ、だけどすぐ笑顔になり、元気に立ち上がった。私をやり込めて、とりあえず満足したのだろう。
大切なことに私が気づいたとも知らずに。
「もう気が済んだか?」
剛田が腕時計を見ながら、綾華に声をかけた。
「一応ね。でもまだこれからが本番よ。旦那を脅して、苦しめて、もっともっと泣かせてやるんだから!」
私を見下ろす目が残忍に光る。
だけど私は怯えない。
気を取り直すことができたのだから。
(私は一人じゃない。莉央がいる、夏樹がいる、そして……)
「ようやく楽しくなってきた! いいわ、由比織人に電話してよ」
「了解。サル、やってくれ」
「わっかりました~!」
綾華になんか負けない。
もう、昔の私ではない。
私を変えてくれたすごい人が付いているのだから。
絶対無敵の、あの人が!
自業自得を思い知るのは、綾華自身だ。
発信音が鳴り響く中、まっすぐに顔を上げた。
19
あなたにおすすめの小説
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
【完】ソレは、脱がさないで
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング2位
パッとしない私を少しだけ特別にしてくれるランジェリー。
ランジェリー会社で今日も私の胸を狙ってくる男がいる。
関連物語
『経理部の女王様が落ちた先には』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高4位
ベリーズカフェさんにて総合ランキング最高4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
『FUJIメゾン・ビビ~インターフォンを鳴らして~』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高11位
『わたしを見て 触って キスをして 恋をして』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高25位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『ムラムラムラモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】
てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。
変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない!
恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい??
You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。
↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ!
※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
網代さんを怒らせたい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」
彼がなにを言っているのかわからなかった。
たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。
しかし彼曰く、これは練習なのらしい。
それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。
それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。
それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。
和倉千代子(わくらちよこ) 23
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
デザイナー
黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟
ただし、そう呼ぶのは網代のみ
なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている
仕事も頑張る努力家
×
網代立生(あじろたつき) 28
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
営業兼事務
背が高く、一見優しげ
しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く
人の好き嫌いが激しい
常識の通じないヤツが大嫌い
恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる